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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
Another final
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命令

お先真っ暗、それが現実的な意味で引き起こるなんて。夜幢丸がどのような妖怪かなど知らない俺が悪いのだが、こんな副作用があったなんて。


 「奴は陰陽師に無理矢理に式神にされた妖怪、悪鬼羅刹のたぐいだ。持ち主の意向には従ったとしても、忠誠心や信頼なんかで動く妖怪じゃない…」


 俺が間違っていた、確かにもう俺に有効手段があった訳ではない。だが、他人が用意した切り札に縋って戦意の喪失を誤魔化した。状況が劇的に打開できると思った方が、頭がどうかしている。


 「それで……相良十次君。夜幢丸はどこにいるんだい?」


 ……は? いや、ちょっと待て。夜幢丸はすぐ前にいるだろうが、もっと言うと奴の体長は『くらぎ』に比べても劣らない程のバカでかさだ、見たくなくても視界に写るレベルだろう。それが見えない? どうしてだ?


 「おい、すぐそこにいるだろうが!!」


 まさか俺にしか見えていない……、これが夜幢丸の特徴か。これは俺には副作用に感じるかもしれないが、一概にマイナス効果だけではないかもしれない。妖怪と陰陽師との連携を否定するそうなメリット、陰陽師と妖怪の信頼関係を奥底から否定するような能力だ。夜幢丸自体の強さに磨きをかける為に、俺の存在はいらないってか。


 「ぐぅぎゃああ、おうぇえええええええ」


 くらぎの悲鳴声が聞こえた、だが俺には『くらぎ』の姿なんか見えはしない。音声だけが情報として、俺の耳に入ってくる。俺に視界に写っていたのは、夜幢丸が拳を突き出す、そのモーションだけだった。


 おおかた、新たな捕食する標的を見つけたくらぎが、夜幢丸にカウンターされたのではない。くらぎにすら、夜幢丸の姿は見えていないのだ。俺の視界には夜幢丸以外の全ての物が見えていない。そして、夜幢丸は他の誰にも姿を確認することはできない。これが奴の能力なのだ。


 だからこそ、俺の存在など必要ないという事になる。奴には俺の援助など必要ないのだ。だって、俺はくらぎが見えない。俺という別の方向から観察している人間の指示など、意味を成さないからだ。こいつを使いこなす人間は、きっと勝利への過程を気にしない人間が望しい。勝利の結果だけが大切に思っている人間には有効かもな。


 「夜幢丸……」


 「やりました、効果があったみたいですね。くらぎはかなり苦しんでいます。私の作戦通りでした。やはりあの時百鬼夜行のリーダーから、夜幢丸を奪って正解でした。あなたをこの場に持ってきて正解でした。これでやっと、あの人へ捧げる復讐が終わる」


 「ヴェヴェ……ぐああああがあががぁぁぁ」


 『くらぎ』の悲鳴が聞こえる……。夜幢丸もそれなりにダメージをくらっているはずだ。見えないながらも、大きい図体を生かして、攻撃を喰らった場所へ攻撃をしている。噛み付き、蜘蛛の糸のような拘束、突進による転倒。聞こえる悲鳴と断末魔によって、状況がどういった具合かは把握できる。やはり見えないというメリットが大きいのか、やや夜幢丸が優勢か。


 『親殺し』、そういうことになる。夜幢丸だって陰の妖怪だ、おそらくはくらぎから生まれた妖怪なのだろう。その息子との呼べる存在が、誰かに操られるように、自分の意思の無く、誰かの復讐に利用されているのだ。皮肉を通り越して、奴には絶望だろう。


 「夜幢丸……俺の妖怪……」


 俺の本当にしたかったことはなんだ? 俺は何をしたいんだ。この瞬間をなんのために生きている? 昔は餓鬼だったから学者の夢を諦めた。高校生になったら、平和主義者になる夢を、絶望が原因で捨てた。俺の先祖はそうやって諦めて『負け犬』になって死んだ。


 俺は何がしたかったんだ? 俺がしたかったことはなんだ?


 「や、どおおおおおおおおおおううまああああああああああるぅ!!」


 気がついたら叫んでいた、いつまで俺は負け犬なんだ? 誰かの手に平で踊っている。シナリオを誰かに任せている? 俺の規則ルールは俺が決める、どう誓ったはずだ。そうやって松林力也は生きて、死んでいったじゃないか。俺はどうだろうか、いつまで他人から与えられた、肩書きと恐怖で頭に計算式を編んでいる? 違うだろう、俺がしたかったのは、自分が思い描いたストーリーへの階段を駆け上がる事だ。


 「夜幢丸!! いい加減にしろ!! こっちを向けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 初めて夜幢丸が俺に反応を示した、俺の鬼の形相が察知したのだろうか。


 「主殿、まさか……まさか……」


 「ああそうだ、目目連!! 夜幢丸!! 俺の言う事を聞け!! 今日から俺がお前のご主人様だ!! このままだと、命令が出しにくい!! とっととこの馬鹿みたいな能力を閉じやがれぇ!!」

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