転校生
四話
俺はもう逃げない。そう誓ったあの日から三日が経った。
別に百鬼夜行の連中など現れないのだが、俺は村正先生と修行を続けていた。いつ、この町にあいつらが襲ってきてもおかしくない。考察するに、この町には陰陽師の聖地であって、実力者が多い。それに一度、他の流派の陰陽師である振払追継の無断侵入を許したこともあり、結界の防御力も上がり、監視の目も多くなった。いくら百鬼夜行の連中でもこの町を襲うのは容易ではないはずだ。あくまで希望的観測だが。
俺は昨日の修行の疲れを残したまま、学校へ向かっていた。俺のから学校までの距離はそう遠くない。ただ俺の歩くスピードがかなり遅い為に、いつも登校に三十分くらいかかる。
珍しく気合いを入れて、修行に取り組んでいる俺だが、さすがに十日も日にちが過ぎると、嫌になってくる。もう早く来いよ、百鬼夜行。などと修行期間を貰えているだけありがたいと思わなきゃいけないはずなのに、呑気に俺は考えていた。早く百鬼夜行メンバーの六人を倒して、皆でだらだらするんだ。
「にしても、梅雨の季節になるか……」
学校は六月、クラスにも何となく慣れてきた。あまり友達と呼べる人は少ないが、一応男子の輪の中に入れて貰えている。本来の陰陽師では真意に反する行為だが、脱退した俺には関係ない。だが飛鳥のことが若干気になる。あいつはあれで、ルールとか規則とかしっかり守る奴だから、やっぱり友達とか作ってないのだろう。
「あいつのクラスに行ってみようかな」
俺は正直あの模擬戦に罪悪感が残っている。今まで戦わずに飛鳥に迷惑をかけたこともあるが、それ以前に俺はあの時、大砲で飛鳥を傷つけた。勝負の最中では、勝つことしか頭になくて罪悪感はなかった。しかし、今になってあれは紳士に反する行為だったと思う。でも、倒さないと、それはそれで飛鳥を傷つけていた結果だっただろうが。それでも女性に暴力を振るった自分が許せない。あれから全く飛鳥と会話していないが、今日くらい頑張って話かけてみようと思う。
学校に到着した、教室が何やら騒がしい。ざわざわしている。男子は皆で手を組んで円陣を作り、女子は三、四人のグループ別れてひそひそ話。
「橇引氏、大変な事態が起きました」
「どうしたんだお前達。学校に隕石でも振って来たか? あれ割といい値で売れるらしいぞ」
「いや、ビックバン的な意味では隕石ですけど」
訳が分からない。ビックバン的な意味って何だ。そんな単語初めて聞いたぞ。
「職員室まで潜入捜査に向かったクラス委員長の佐々木さんに話を伺いましょう。佐々木さん」
うちのクラスの委員長かつ作戦遂行部隊隊長の佐々木さんが前に出た。ちなみに、こいつはこの前、俺に変態疑惑が起こった時に、男子全員の胴上げを指揮したのもこいつである。俺の深夜の努力で記憶を消去した為に、コロッと忘れているようだが、俺はお前を絶対に許さない。
「はい、こちら佐々木です。なんと転校生がやってきます。女の子、しかもかなり美少女だった!!」
雄叫びを挙げる男子生徒諸君。おいおい、期待しすぎだろ貴様等。つーか、何に期待している。
その時だった、俺の携帯電話が鳴った。授業中じゃなくて良かった、なんて悠長なことを思いながら、喜び泣いている馬鹿共を放っておき、メールを確認する。相手はなんとあの御上。びっくりだ、俺にあいつから連絡するなんて陰陽師止めてから初めてじゃないか。まだまともな陰陽師だった時は、毎日のように連絡されていたのに。
内容を確認する為に、携帯を開く。あいつの文章の癖は文が極端に短いことだ。まあおっさんが、メールに顔文字とか使って、無駄に長ったらしく書くのもどうかと思うが。あいつのメールは本当に要件のみを伝えるようになっている。そこにはこう書いてあった。
侵入者が現れた。