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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
Another final
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武者

逃げ出す勇気の否定、この場合では俺が戦わずして誰がやつと対峙する。俺が倒せないなら、あんな奴を倒せる奴がいるだろうか。いや、俺は確かに世界最強の陰陽師なんかじゃない。だが、奴を上回れる奴はいない。きっと……。


 「俺に逆転の可能性があるとすれば……夜幢丸……。あいつしかない」


 元、阿部清隆の手持ちの式神だ。あの馬鹿野郎の手持ちだっただけに、期待が持てない。面来染部に渡された時も、全く感銘な気持ちは湧いてこなかった。寧ろ、役にたつイメージが起きなかった。夜幢丸は阿部家の陰陽師が使用する伝説の妖怪とか、そんな泊がある訳でもない。


 阿部清明の特技は寧ろ、妖怪の使役を選ばない事であった。奴は、その圧倒的なバトルセンスと、膨大な体内の妖力で無理矢理に妖怪を式神にした後、使い捨てるかのように部下に分け与えて戦っていたのだ。奴の文献から『固有の妖怪』などは見つかっていない。


 夜幢丸は阿部清明が封印した、陰の妖怪の一体だ。平安の世を脅かし、街を破壊し、咆哮をあげた化物である。こいつは紛れもなく百鬼夜行が集めていた『捕獲不能レベルの大妖怪』の一匹であり、松林力也が集めていた、全国に名高い曰くのある悪しき妖怪である。阿部清隆は自慢のために御札の状態で手元には残していたらしいが、結局は活躍の機会は無かったらしいからな。


 「こいつを使えば勝てるなんて、そんな保証はないだろう」


 「勝てる保証がないのは、この城に入った時から分かっていただろう」


 それはそうだ、無駄死にする気持ちで、俺はこの場に臨んだ。俺には必ず果たさなければならない役目がある。


 「使うしなねぇ。もう頼みの綱はこいつしかない。逆転の切り札になってくれ」


 俺は切り札を翳した、御札から夜幢丸を呼び出した。俺の妖力と奴の妖力が結びついていくのが感じられる。この場に来る前に、俺はこいつと契約を御札の外でやった。対面をしていない以上は、仮的な契約になる。本当に目と目を向き合ってお互いの妖力が混同していくのだ。


 「殺してやるぞ、女王蟻。きっと……」

 ★

 目の前が真っ黒になった、何が起こったのかよく分からない。夜幢丸を召喚してから俺を襲ったのは、途方も無い理解不能の光景だった。まず目線に見える世界がおかしい。なんというか、見えてはならない物が見える。空気に淀む猛毒だ。


 「なんだこれ……今度は何が起こった? おい、面来染部、生きているか?」


 「えぇ、絶対回避能力者たる私が死ぬわけないでしょう。それよりも、これが夜幢丸ですか。浮ついた気持ちで音無晴香から奪ってきましたが、これは思ったよりも圧巻ですね」


 奴には見えていないのか、この視界の淀みが。違和感なんてもんじゃない、まるで俺が住んでいた世界が終了した気分だ。


 「見えない……何も見えない……。なんだよ、これ……」


 俺は視力を失ったのではないと思う、だって自分の身体の部位や身に付けている物は見えている。見えないのはそれ以外だ、それ以外の全てだ。いや、あと一つ見えるものがあった。夜幢丸自身、奴がどこにいるかだけは、良く見える。


 奴の姿は落ち武者そのものだった。と言っても別に人間のような姿をしているのではなく、ただ戦国時代に使われていたような、紅の鎧が人を中に入れずに自立歩行している感じだ。首がないのが、一番に顕著にイメージとして入ってくる。


 「どうしました? そこの男子高校生」


 「見えねぇ、何も。俺と夜幢丸以外の全てが見えないんだ。まるで暗闇に置いて行かれた気分だ。視界障害じゃない、きっと夜幢丸の副作用だ」


 面来染部はどこにいる? 倒すべき『くらぎ』はどこだ? 奴を見ないと夜幢丸に指示も出せないだろう。俺は夜幢丸にこの戦いの全てを預けたのではないのだ、一緒に闘うために呼び出したのだ、それなのに。


 「馬鹿言っちゃ駄目ですよ。見えないだなんて。所詮、人間の目に写るものなんて万物全てが光です、そうでしかありません。色は光の波長に差があるだけ、人間の目は所詮はカメラと同じ構造……って聞いてます?」


 「本当に見えないんだ!!」

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