鎖鎌
同族嫌悪なんて単語を使うんじゃないだろうか、こういう場合は。似ている奴が嫌いになるのは、自分が嫌いだからだ。友達がいない、家族がいない、信頼できる仲間がいない。そんな封鎖された人生が俺の運命が、俺の自由を奪っていった。
運命という言葉を『対戦ルール』とした場合に、俺の基本設定は最悪だった。ヒネクレ者になりたくて、生きているのではない。俺だって正義を信じて生きて、仲間とわいわい騒ぎながら、弱気を守るヒーローでいたかった。
でもダメだった、俺には才能も素質も、用意も無かったんだ。
「松林力也、お前だって同じだろう」
この世にな、本物の悪人なんかいないよ、皆知らず知らずのうちに、悪役になるんだ。人間の本質が悪だから。自殺する未来を考察して、いじめをする奴なんかいない。でも、一時の油断と感情でやってしまう。人間には理性以外にも、感情をコントロールできない物があるから。
「お前と俺の何が同じなんだ」
「”孤独”さ。リーダーになろうとして失敗したお前は、たった一人だ。正義の味方になろうとて失敗した、俺も一人だ。俺はなぁ!! 本当は優等生になりたいんだ!! 皆に勉強を教えてあげたいから!! でも俺は頭が悪いから、もう不良のレッテルを貼られているから!! 一度、孤独になったら、取り返しがつかないんだ!! 人間には先入観があるから!!」
障子から武器を取り出した、俺の専用の鎖鎌である。以前に鶴見牡丹を戦った時に使用した鎖と同種だ。俺の妖力に合う素材になっている。
「ちげーよ、お前は俺とは違う。俺は主人公で、お前はモブだ」
松林が立ち上がった、懐から御札を取り出すと、噂通りの『がしゃどくろ』を取り出した。レアな妖怪だ、恐らくこいつも捕獲不能レベルの大妖怪だろう。だが、俺の目目連もこいつぐらいなら負けていない。
「その生意気なガキを黙らせろ!!」
巨大な人口模型のような形、だがよく見ると目玉だけが飛び出ている。随分とパワーがありそうだ、能力に特化しているのではなく、攻撃力に特化している。
「さぁ、負け犬さん。頑張って」
「五月蝿いよ、悪霊。お前の力なんか宛にしてないから下がっていろ」
奴の拳が容赦なく上空から飛んでくる。短調でありだから厄介だ。表面積が大きすぎる、飛ぼうが回避しようが、よけられない、そして当然に防げない。だが……。
「俺は個室の自由な空間を支配する陰陽師だ、大きさや重さで押し切れると思うなよ」
俺の頭上に斜めに、奴の拳と角度を合わせて障子を展開した。一瞬で開いたその薄い壁は、異空間に繋がっている。拳は見事、俺には刺さらずに亜空間へと消えていった。いわゆる消える魔球の防御版。
「鬼神スキル『帯脆』」
鎖鎌を投げた、その長さは獲物を完全に捕縛し切るまでは無限であり、動きは変幻自在だ。ガシャドクロを完全に包囲すると、一気に縛り付ける。
「そんな攻撃がガシャドクロに通じると思うか? 奴は骨なんだぜ、分解してまたくっつけばそれでいいだけの話だろうか」
馬鹿はお前だ、この俺がそんな事を分からないとでも思うか。このがしゃどくろが、分解していくつかの体に分裂するのは百も承知だ。伊達に理事長の部屋を破壊した訳ではない。
ガシャドクロが脆く割れた、分解されてバラバラになった、瞬時にいくつかの個数体に別れて、俺を攻撃するのだろう。だが、地の利が無かったな、ここは畳の上。地面には通じていない。隠れる場所はないのだ。そしてもう一つ。
「俺の狙いはこっちだ!!」
拘束を止めた鎖は一気に掛けていた力を解き放たれ、弧を描くように回転する。力学でいうエネルギーの法則のような物だ。貯められた力は一気に、新たな標的へと向かう。狙いは……お前だ!!