笑顔
三話終わり
飛鳥は昔から他人に笑顔を見せない女の子だった。小学校の頃のあだ名が”人形女”。恐らく口にした人間は、からかうつもりで言ったのではなく、ただ怖くて軽蔑の意味を込めた言葉だったのだろう。
だが俺は知っていた、飛鳥は笑ったらすごく可愛いって。俺に対しても大概は、無表情だったが、たまに俺が自慢話をした時だけ、笑ってくれた。テレビの話や、俺の失敗談とかでは笑ってくれないくせに。なぜか自慢話で。
俺はそのことを頭の中でこう解釈していた。飛鳥は俺の自慢することなんか、大したことないと思っている。だからその大したことないことで自慢してくるこの男はなんて愚かな男だろう。そういう意味で笑っていると思っていた。
だが、この年になってようやく分かった。そうじゃないんだって。
「行弓、分かっていると思うのじゃが」
「分かっているよ、飛鳥がワザと負けたってことくらい」
ワザとじゃないにしても、明らかに飛鳥は全力で戦った雰囲気ではなかった。始めから、負けるつもりで戦っていた、それどころかまるで負けたかったのではないか、そう思わせる程。
「何にせよ、お前の勝利だ、行弓。まあ95パーセントくらい俺のおかげだな」
「先生、ありがとうございました。もう地元に帰っていいですよ」
「おい、それどういう意味だ」
飛鳥は俺をどう思っているのだろうか。戦歴に泥を塗った憎き相手だろうか。それとも、勝とうが、負けようが、どうでもいい、ただの模擬戦の相手だろうか。それとも、幼馴染なのだろうか。その答えを得られるとは思わないが、取り敢えず飛鳥が倒れている場所へ走って駆け寄った。よつばが後を着いてくる。
「飛鳥……」
飛鳥は目を覚まさない。ずっと寝ているままだ。式神である一反木綿のみが、飛鳥のお札の中に、煙のように吸い込まれるようにして、入り消えた。
「飛鳥、俺はな。まあお前のことを大切な幼馴染だと思っているよ。本当にごめんな、お前が苦しい時に俺はずっと逃げていた。傍にいないで。何年間も」
俺は自分のことしか考えていなかった。いつでも俺が幸せあることのみを考えていた。なのに飛鳥はずっと俺を待っていてくれた。俺を諦めないでくれた。飛鳥は俺がいつも笑っている時に、一人で戦っていたんだ。女の子が一人で。気づいてはいた、しかし飛鳥は天才だから、その一言を理由に俺は、飛鳥が一人で戦うことを当たり前だと思っていた。俺は弱いから、それを理由に俺は戦わなかった。でもようやく分かった。弱いことは、戦わない理由にはならない。弱いなら、強くなるしかない。
「飛鳥、今度はもう、俺は逃げないから。だから今度は一緒に笑えるように、一緒に戦うから」
いつの間にか、言葉に出していた。倒れている飛鳥を手で押さえながら、起こす。まだ飛鳥は気を失ったままだ。俺は自分の不甲斐なさに涙を流した。俺は大切な人を今まで守ってこなかったのだから。弱い、弱くない以前の問題だ。俺は最悪の男だ。友達や仲間の繋がりを失って、陰陽師の肩書も失って、こんな何もしない情けない姿になって、ようやく自分がいかに無責任だったのかを知った。
「だから飛鳥、まだ俺を傍に置いてくれるか。もう逃げないから」
こんな言葉で俺の罪が許されるとは思っていない。しかし、俺は目を瞑って下を向き、祈るように言った。こうするしかなかった、俺には。
「約束ですよ」
見上げると、また飛鳥が笑ってくれていた。
はい、太刀風居合です。三話終了です。
うんまずい、ペース明らかに可笑しい。だんだん一話に掛ける長さが増えている。
しかし……バトルシーンに入った瞬間にいきなりアクセス数が増えたのはなぜ?
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