変革
特定の妖怪を倒す方法は、決まって文献を調べる事が一番の近道だと言われている。それは過去の英雄が妖怪を撃退した詳しい方法が残っている上に、実際に効果が覿面だからだ。
「だから、せめて撃退方法だけでも綴ってくれていれば、少しは楽になるんだが。なんか弱点とか書いてないのかよ、一発逆転の」
「誰も知らない妖怪に撃退方法なんかないよ。こいつに対抗するには、もっと絶対的な何かの力が必要だ。君はあの理事長先生から一目置かれている陰陽師なのだろう。なんか捨て身の切り札とか持っていないのかい?」
捨て身って俺が死ぬにはいいのかよ、ってこいつに言えた義理じゃないか。だが、残念ながら俺にそんな都合のいい代物があるなら、既に打算に入れている。俺は空間転移、いわば隔離空間を作成する事に長けている、簡単に言うと実践での決定打には直接的に関係しない強さしか持っていない。鶴見牡丹に敗北した理由がそこだ、俺は相手を『倒す』ことには特化していない。
「目目連は極めて特殊で、かなり有能性の高い妖怪だ」
「主殿、さすが分かってらっしゃる……」
「その反面、純粋な戦闘には向いてない。一般人を襲うならともかく、拡散する目玉を利用して観察と罠を作成して、黒鎖で閉じ込めたとして、そこまでなんだ。そこから巨大化する剣とか、業火を纏った突進とか、空間を引き裂く弾丸とか、そんな『トドメ』が俺たちには無いんだ。いわば、サポート専門なんだよ、俺は」
「ぬぁ!!」
目目連が落胆したかのように落ち込んでいるが、今は気遣ってやれない。それよりも『くらぎ』、そして奴が使用するであろう『人を殺した過去のある妖怪』の対策の方が重要だ。
「えっと……君って本当にキャラブレしているよね。だって基本的にRPGとかのサポートキャラって、大人してくて清楚なイメージがない? 君みたいな批判家みたいな奴はそもそもパーティに入れて貰えないのかな」
「その通りだよ。あと、現実とゲームは違う。現実的にパーティーなんか存在しないでしょ。小隊なんかあっさり崩れ去るし、隊長に対してなんか不満たらたらだし……」
だからそういう態度が駄目だって、みたいな顔でこっちを見てくるな、面来染部。松林力也を倒せない以前に、俺が人間として駄目だとでも言うのか。
「他人を否定するって簡単ですよね、楽勝ですよね。他人の悪いところって顕著に見えますから。確かにあなたの発言通り、人間は多少の不満を押し隠して生きています」
好意が悪影響になったり、他人の決断が自分にとって都合が悪かったり、多数決の反対派になって嫌な思いをしたり。人間には感情がある、それはとても傷つきやすい。
「でもですね、私は人間に大切な物の一部として、『ノリ』と『タイミング』って物も含まれると思うんですよ。あなたにはそれが欠落している。雰囲気に乗っかる、他人と同調する、意見を合わせる。譲る気持ち、受け止める気持ち、そんな物が足らないから君は駄目んじゃないかな」
悪かったな、それで松林力也のやり口も認めてしまえって言いたいのか。
「冗談じゃない、このまま松林力也に身を任せていたら、何人の犠牲者が現れるか分かったもんじゃない。奴を否定しない限り、未来は真っ暗だぞ。一般人にまで迷惑がかかるかもしれない。それが正しいのかよ、それが時代の変革なのかよ!!」
「じゃあどうする? 少年」
どうする? こっちが聞きたいくらいだ。俺に何ができるというのだ? この負け犬のサポートの主人公じゃない批判家の俺が、何が出来るっていうんだよ。
「松林を否定しつつ、それでいてノリとタイミングを失わない、周りと同調する方法は? 君なら分かっているだろう」
……………冗談だとは思うのだが…………。
「俺が規則をつくる……」