大昔
俺が『跡取り』から家系図的に枝分かれしたのは、遥か大昔だ。阿部清明の子孫と名乗れる程に、奴の血は残っていないだろう。というか、俺が今さら決意表明したところで、誰が俺を党首として認めてくれるだろうか。地方の奴らは全員で、腹を抱えて爆笑するか、鼻で笑って酒の肴にでもされるだろう。
「党首を座を奪え返すチャンスってか? 冗談じゃない。俺は見ての通り、口だけが達者の批判家だ。こんなその辺にいそうな高校生が、みんなを纏めるリーダーになんかなれない」
なぜ阿部清隆が党首として失敗したのか、幾多の数え切れる理由が満載だろうが、一言で言い表すと『実力不足』だったのである。誰かに訴える主張力、絶対に周囲を不安にさせない政策の打ち出し方、リーダーという役柄に必要な要素多いが、やつは根本的に指揮官の才能が撃滅していた理由がある。
自分のことしか考えてなかったことだ。
「リーダーって言うのは、一番に実力がある奴じゃないんだ。そういう奴は野球じゃ『エース』って呼ばれるんだろ。指揮官はエースじゃなくて、『キャプテン』だ。作戦を組み立て、仲間を伺い、視野を広く持つ。点数を決めるのがキャプテンの責務じゃない」
阿部清隆はその辺の才能も最悪だった。自分中心の生活、役割は放棄して他人任せ。プライドが邪魔して自分を省みない。部下を自分の都合の良い手下としか考えていない。これでリーダーが務まるはずがないだろう。
「俺が駄目な理由は顕著だ。俺も自分のことしか考えてないんだよ。誰かを活躍させてやろうとか、皆をサポートしてあげようとか微塵も考えられない。俺は批判家だ。仲間として寄り添って来てくれた連中を、否定的に見てしまう。良さを分かろうとしてやれない。これじゃあ駄目だ」
俺は確かに平和主義者である自覚はあるが、いわば防衛戦だ。これこそ一番に俺が駄目な原因だ。『俺が守ってやる』という発想にはなっても、『お前たちをサポートしてやるぞ』とか、『活躍の場を提供してあげる』とか、そんな真似が出来ないという事だ。
「でも松林力也なんてお調子者よりかは、主様の方が思いやりのあるお方に存じます」
「思いやりじゃ駄目だ、いわば未来を先読みする力がいるんだよ。作戦実行、安定な試合運び、不備の修正、最小限の被害の想定、何十手も先を読んでおかなきゃいけないんだ。そしてリーダーに『負け』は許されない」
先読みが出来る力は先程の俺が言った『サポート』に準じる。仲間を奥の奥まで知らないと、安心して作戦に送り込めない。将棋の駒の動かし方が知らないのに、将棋が強くなれるか? そういう話だ。俺は他人との会話とか苦手だ。だから先読みも把握も出来ない。
更に言うなら、『経験』がない。鍛え抜かれた英才教育だの、何回も実践を渡り歩いてきた、または先代の影を追い続けたなどの、実績に繋がるものがない。自分の判断に絶対的な確信がない、それで仲間に安全を保証できるか? 絶対安全が確保できなければ、未来への作戦が狭まる、つまり先読みが出来なくなる。
「俺はリーダーとして何もかも足らないんだ」
「主殿、それは………」
俺が喋りつつも渡島塔吾の書斎を、本を地面に叩き落として調べているが、それらしき代物は見つからない。娘の写真とかが、綺麗に飾ってあるせいで、邪魔で邪魔で調べられないのだ。だからって流石に、奴の思い出の品まで破壊するのは、気が引ける。
「半年前の資料と、松林力也の情報か。簡単じゃないとは思っていたが、ここまで手こずるとはな。奴の厳重さには恐れ入ったぜ」
「主殿? 主殿? それでいいの? 仮に松林力也なる男を倒しても、党首不在の問題が根本的に解決しない……。このままじゃ…」
すいません、補講で遅くなりました
まったく最近は本当に学校が…‥