比喩
俺の運命だと、なんでそんな至極悪霊には関係ない事を口にする。俺なんかきっと運命と呼ばれる大層な物を抱えて生きていない。運命を『ゲームの対戦』だと比喩するなら、俺はそんなゲーム事態に参加していないのだ。
「俺に何のようだ? そんなに誰かに恨みを抱かせるように、生きていた覚えはないんだがな」
「いいえ、私はあなたに大いに用事があります。これは私が生涯に愛した彼女への弔い合戦であり、あなたは私の復讐の関係者だ。よって、自分の身を守りたいなら私に協力してもらいます」
弔い合戦だと……そんな言葉を言われる筋合いがあるとするならば……。
「河野壱絵の事か。お前は河野壱絵の関係者だな」
河野壱絵……俺があの空間に閉じ込めた女子高校生の事だ。柵野栄助に体を乗っ取られて、意識だけの世界へ閉じ込められたあと、悪霊退散の為に……その命を犠牲に捧げられた少女の名だ。
「彼女は確かに幽霊や妖怪や地縛霊なんて代物が見える極めて特殊な体質の持ち主だった。だから彼女は柵野栄助に狙われた。でも彼女は只の一般人だった、体質はあっても陰陽師の世界とは関係の無い別世界の住人だった」
その通りだ、彼女は陰陽師に隠蔽工作として、『存在を消されている』。家族、友達、講師、地域の方などは彼女に関する記憶を全て失っている。戸籍は消え、学校の机は不自然なく消え、彼女の持ち物は消えた。
「でもこれって違反行為ですよね? だって陰陽師は一般人に迷惑をかけたら駄目なルールでしょう。もし一般人に迷惑がかかるなら、その時は皆殺しになった場合だけだ」
そうだ、俺たちはやってはいけない最低な行為をした。自分たちの不始末を隠蔽する為に、一人の少女の命だけではなく、全てを抹消したのだ。相手が最凶の悪霊だったなんて、言い訳にならない。
「全ての陰陽師を代表して謝罪する……すいま」
「誰が謝れって言ったぁ!!!」
奴が悪霊特有の瞬間移動をした、俺の目と鼻の先まで一瞬で近寄ると、いつの間にか肩から取れていたマフラーで、俺の首を……締めた。
「うぐぅ、止めろぉ、何しやがる」
「あの子の痛みが君に分かるか……、彼女の苦しみが君に分かるか!! 彼女が誰に何をしたって言うんだい? 彼女は只の被害者だった、死ぬまで被害者だったんだ。お前みたいな、自分以外を全て『馬鹿』呼ばわりして、平和主義者を気取っている、何の役にも立たないクズには分からないだろうね」
否定しようがない……確かに俺は屑だ。生まれて来てから『負け犬』として屑だった。隠蔽工作に加担して、それに対し罪の意識が低いのが屑だ。戦争を止めさせられず、何の平和維持活動も実現出来ていない屑だ。戦争にも判断が着かずに、どっち付かずで燻っている屑だ。鶴見牡丹を救おうとして、惨敗した屑だ。
俺は『負け犬』だ。
「主様!!」
「止めろ、目目連!! 助けなくていい!!」
俺は然るべき罰を受けるべきだ、俺は恨まれて然るべき人間だ。何を今更、謝罪なんてみっともない真似をしているのだろうか。そういう『謝ればいい』なんて態度も俺は屑だな。
俺はいつもそうだ、態度がデカイ割に功績は薄い、口が悪くて批判家の割に、自分を棚にあげている。誰が俺を擁護してくれるだろう……。あの河野壱絵を救えなかった時点で、任務失敗で俺が『死ぬ』べきだったんだ。俺は結局、誰かに散々に利用されて、そして責任を命令した指揮官のせいにしている。俺が一番屑野郎じゃないか……。
「救われないなぁ、いや違う。誰も救えない人間が、自分の救いを求める事は……高望みか。いいぜ、面来染部。俺を殺せよ。お前は俺を殺していい資格が充分にある。というか、俺に生きる資格が無い」




