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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
Another final
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負け犬

俺の一族は負け犬だらけだった、なんてその歴代の負け犬の一匹である俺が何を威張れるだろうか。いわゆる分家問題という奴だ、世の中には『長男が偉い』とか『跡取りが偉い』とか、実力云々ではなく何と生まれた順番という何の優劣の判断材料にもならない馬鹿みたいなシナリオで、人生のレールを敷く連中がいる。陰陽師の世界にもそれが根強かった。


 

 だから俺の一族は負け犬だ、いくら実力があろうとも意味はない。だって長男様より後に生まれたのだから。陰陽師として、この時点で勝負は着いているという物だ。その時代の『お兄様』は悪知恵だけは働いたらしい。俺の子孫の家族に、下らないいちゃもんを付けて、島流しにした。地位を危うくしない為の、最善策である。


 ここ最近では風潮的には少しは考え方が見直されてきた。やっと自分達が犯してきた過ちに気がついたのだ。『このままじゃまずい』、そう思った時には完全に手遅れだった。陰陽師の現党首様は阿部清隆あべのきよたかという豚小屋で育てられた我が儘王子。一代ごとに弱体化すれば、まあ最終的に行き着くのはそこだよな。


 人間は多少は危機的な状況に追い込まれていたほうが、将来を輝かせるのだ。だってそうだろう、人間の才能なんて漫画で言う程に大小の区別なんかない。確かに各分野に特化した人間はいるし、何度繰り返しても上手くいかない連中もいる。だが、人間が進むべき道など無数だろう。一個の道が閉ざされていようと、そんなに支障はない。『好きなこと』とやらだけ頑張ればいいのだ。多少は下手な方が努力するだろう。


 危機感の薄さが生んだ、歴代最弱の馬鹿野郎は、先日の悪霊襲撃事件で抵抗も虚しくあっさりと殺された。いくら遠い祖先で血が繋がっていようとも、これは同情出来ない。たった一回の襲撃を本部が防げないなら、陰陽師という組織そのものが灰と化した方がいい。


 「つまりは……」


 「主殿、これはチャンスでございますね」


 なんでこんな状況になる……って話だ。


 俺の名前は相良十次さがらじゅうじ。平和主義者で緑画高校の一年生で式神目目連のパートナーで、まだ一応は陰陽師で……かの有名な阿部清明の子孫だ。


 「あの馬鹿理事長は、うちの学校の過激派連中と世界を守る聖戦に向かったのはいいが……ありゃ百鬼夜行の援護じゃないな。きっと橇引行弓を殺害する腹だ。はぁ~、これで柵野栄助も終わりか。まあ、お前の特殊空間の中で奴を拘束する任務も終わりだな」


 「それはそれで主殿。どうして主殿は戦地におもむかないのですか? 橇引行弓氏のピンチでしょう。このままじゃ死んでしまいます。それか柵野栄助を確実に討つ為に、理事長様にご協力なさっては? どちらも正義を果たす行為だと存じます。でも、あなた様は逃げているだけ。まるで……」


 平和主義者じゃなくて、只の腰抜けって言いたいんだろ。正解だよ、俺は結局には『決断』なんて真似が出来なかった。今までの俺は、本部や地方の過去の遺物をただ始末すればいい、なんて考えている連中が『悪』だった。だからソイツ等を止める事が俺の正義だった。でも世界は俺が思っているよりも複雑だった。


 レベル3の悪霊の存在だ。俺が考えていたのは、妖怪との共存を阻む連中と、それを押し付ける連中の両方の目を醒まさせて、お互いに手を取り合い闘う世の中にする事だった、それが俺の理想であり、俺の闘う理由だった、だが、知らなかったのだ。世界はそんな生温くて悠長な事を言ってられる程に、余裕のある時代じゃなかった。陰陽師機関の全体は、もっともっと崖っぷちに追い込まれていたのだ。


 俺が果たすべき正義は……有耶無耶になってしまった。


 「恥かしい限りだが、俺は結局……『運命』に負けたんだな」


 ★

 「馬鹿じゃないんですか? いや、この場合は多勢の人間を馬鹿呼ばわりとしている君に対しては、お前が一番にバカ野郎だ!! って言ってあげた方が効果的ですかね? 『運命』に負けた? 十代の若造が勝負から降りる言い訳してんじゃねーぞ、馬鹿野郎が」


 ……誰だ?


 いや、まずはこの状況を整理しよう。理事長及び一部の高学年の連中が遠征に出ていても、緑画高校の夏休みはいつも通りに行われた。学校には人は少ない。部活動生も皆、片付けを始めている。


 俺はこの時間にはいつも、平和維持活動と称して過激派を説得しに行くのだが、標的が学校からいなくなった以上は、すべき事が無くなった。だからって家に帰っても仕方ないし、こうやって屋上の窓際に立って夕焼けでも見ながら、目目連とお喋りをしながら、自販機で買った栄養ドリンクと共に、自分の今までの反省をしていたのだが。


 「お前は……誰だ?」


 ニット帽にマスクに似合っていないグラサン、さらに長すぎるマフラー。この夏真っ盛りの時期にミスマッチというか、変質者の自己主張をしているとしか思えないというか。


 「他人に名を聞くときはまず自分から名乗れ……なんて、定石通りのやり取りしても、私は君の事を知っているから、時間の無駄だね。それじゃあ名乗らせてもらうよ。私の名前は面来染部つららいせんべ。レベル3の悪霊さ」


 悪霊……馬鹿な。そんな奴がどうしてこの学校に……。


 「悪霊として、陰陽師育成機関であるこの学校を破壊しに来たのか? 丁度、この学校の理事長は留守だしなぁ」


 「いやいや、私は平和主義者だから……そんな時間の無駄をしませんよ。彼等との約束違反になりますしね。私も目的は一重ひとえに君だけです」


 「俺を殺したいって話か?」


 額から汗が垂れた、まさかこんな屋上でくつろいでいただけで、こんな窮地に立たされたんだ? なんで死亡フラグが起爆した? 


 「何と言うのかな? 私如きで恐縮ですが、言わせて貰いますと。『運命』なんて代物は只の対戦ルールですよ。自分の身を守る物であり、自分の身を滅ぼす物でもあります。だから、このルールから言わせてもらうと……」


 奴がニット帽とグラサンとマフラーとマスクを脱ぎ捨てた。そして、現れたのは中年の親父顔ではなく、二十代後半くらいの顔をした男だった。


 「運命はあなたを逃がさない」

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