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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
エピローグ
441/462

友達

俺がこの一連の戦いで一番に失った物は……友達だった。


 「烏天狗……まさか、あいつが帰って来るのか?」


 それは願ってもない事だ、俺が一番に望んでいた事である。友達が帰って来る。もう二度と帰ってこないと思っていたあいつが、また俺と再開できるのだ。


 「やった、やったぞ……」

 

 日光の体温上昇など忘れていた、体調の悪さなど吹っ飛んだ。目から涙が溢れた、頭が嬉しさだけで埋まった。


 「あいつが……遂に……復活したんだな!!」


 「してませんよ」


 飛鳥がキッパリ言った、まるで俺をワザと落胆させるかのように、厳しい目で、厳しい言葉で、俺の希望を打ち消した。


 「おい、だってお前さっきダミーだの、魂をこの山に残しただの……それっぽい事を言っていたじゃないか!!」


 「確かに烏天狗は生きてますよ、本来的に妖怪は死なない、寿命もない、そんな生き物ですから。でも、妖力の前に肉体を失ったのです。それを再度、元に戻るにはどうしても時間が掛かります。いくら妖力がこの場に帰っても、完全復活には至りません」


 肉体……そうか。柵野栄助に襲われた時に、奴は体まで完全に消されていた、一時的に殺されたのだ。妖力があれば復活できる訳ではない、復活には長い時間の狭間が必要だ。


 「そんなぁ……じゃあ、あいつが復活するのは、あと百年後か千年後か……誰にも分からないじゃないか。俺はあいつに今すぐ会いたいんだよ。こんな事って……」


 こんな馬鹿な、俺の感激は早とちりだったなんて。あいつは俺を救う為に犠牲になったんだ。俺のやっと会えた相棒なんだ。俺の大切な友達なんだ。膝の力が勝手に抜けた、前のめりに俺は倒れた。


 「これじゃあ……俺が先に寿命で死ぬかもしれないじゃないか……」


 「行弓、何を言っておるのじゃ」


 御上よつばが俺の肩に手を乗せた、馬鹿みたいにみっともなく泣いている俺をあやすように……。


 「待とう、それしかないじゃろ。奴が死んでなかっただけでも儲け物じゃろう。気長に待つなんて、行弓の先輩特許じゃろうが」


 友達って何だろうか、毎日のように顔を合わせる人間か、暇があれば共通の趣味を出来る人間か。共通の敵を抱えた仲間のことか。未来への目標に向かって夢を語り合える人間か。それもあるだろうが。


 「何年経っても、いくら時間が二人を引き裂いても、お互いに気楽に笑い合えるのが『友達』じゃあろう」


 よつば……お前……。


 「なんじゃ、その信じられないという顔つきは。うちだって少しは反省したのじゃ。だからお前に期待をあげようと、この場所に……」


 「いや、ありがとう」


 本心だ、確かに今すぐには幸せは手に入らなかったが、これでも今は満足だ、生きていれば、またあいつに出会える可能性がある。そしたら俺がまた、楽しそうに久しぶりって声を掛ければいいんだ。


 妖怪が少年時代に見せた幻なんて嘘だ、友達はそんな年月じゃ引き裂ける物じゃない。俺はいつまででも、例え爺さんになっても、あいつの帰りをここで待ち続けてやる。


 「少しは凹みも治りましたか? 行弓君?」


 「あぁ、また明日を生きる理由が出来たよ」


 この森林が俺の財産だ、きっと奴は俺のピンチになったら、すぐに封印から目覚めてひょっこり顔を合わせに来るだろう。きっとあいつはシャイだから、緊迫した場面じゃなきゃ現れないんだ。


 「帰りましょうか?」


 「あぁ、帰ろう」


 こうして俺たちはまた明日を生きていく。この町で。特に何もせずに、陰陽師を名乗りながら。俺がまた活躍する機会を気長に待ちながら。


 

 (完)

 この後に『another final』で少し番外編みたいな事をするのでよかったら

 どうぞ

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