調達
器物破損罪では陰陽師は裁けない、だって隠蔽工作をされるに決まっている。奴にバラバラに破壊されたのは、俺の部屋の窓ガラスではなく、俺の心だということになる。
「お前さぁ、少しは手加減とか常識とかさぁ」
「一緒に参れ、ちょっと面白い場所があるのじゃ」
★
「お前が言う面白い場所ってアテにならねーよ」
なんて腐れ文句を言いつつも仕返しが怖いので、きっちり同行する自分が情けない。奴が何を考えているかは分からないが、どうせまた珍しい妖怪や、自分の遊びに使う為に調達する気なのだろう。
百鬼夜行にいた頃は、同じ小学生の陰陽師として音無晴菜という奴がいたが、なんかイメージが違うな。あの人は生意気という点は合致していたが、あいつは反応が薄いというか、否定的に相手を見る野郎だったからムカついた。
でも奴はなんと言うか、自分勝手な暴君というか、我が儘過ぎて手に負えないという感じだった。最近、出会ってなかったから、奴の凄まじさが一層酷く感じる。松林力也の自分勝手とか、以前の党首様だった阿部清隆の気持ち悪さとか、我慢出来た理由って其の辺だと思うんだ。
「あぁもう眠いよ。なんでこんなに炎天下の夏に、お前の飯事に付き合わなきゃならんのだ。干からびるよ、俺」
「干からびる……行弓が干からびる……おぉ」
「お前は今、何を想像した? お前は俺を実験台にする気だ?」
「行弓。お前、なんか帰ってから五月蝿くなったのじゃ。昔の諦めサンドバック精神はどこに捨ててきたのじゃ?」
「抵抗を止めたら干物にされるわ!!」
咄嗟に出した大声のお陰でまた体温が上がってきた、どうして奴の巫女服の方が体温が上昇しやすそうなのに、平気な顔をしているのかというと、奴の服には特注で特殊な冷気を保つ首尾が整っているからだ。比べて俺の服装はただの夏らしい格好。布の面積を最小限にしても、太陽光線は避けられない。
「というか、白昼堂々、巫女服で行進しているという事は」
「うむ、人払いで通りかかる人を……」
「お前って本当に自分勝手だよな」
もう帰りたい……このままじゃお天道さんに体力を全て持っていかれる。このままじゃ……。と、よつばが足を止めたと同時に、俺もようやく足を止める。そこは俺もよく知ってる場所だった。烏天狗が住んでいた山、烏天狗が殺された場所、俺が柵野栄助や偽物の音無晴菜と契約した場所。俺としては負の思い出なので、あの事件以来は近寄っていなかったが。
『keep out』と書かれた黄色い進入禁止のロープの前に、この前の事件でもお世話になった俺の幼馴染である日野内飛鳥さんがいらっしゃった。俺を見ると、すぐに希薄で薄らとした目に変わる。
「高校生男子が汗だくだくで小学生の女の子と散歩……。お巡りさん、こっちに変態がいますよ、の通報ですね」
飛鳥、それは冗談にしては笑えない。誰がこんな聞き分けの無い餓鬼と一緒に、こんあ暑くて死にそうな中……とか、言おうとして黙った。飛鳥の謹慎は既に解けていて、仕事に復帰している。御上よつばの側近としての仕事も健在という訳だ。奴も振り回されている身だ。謹慎明けにこんなハードな仕事とは、可哀想に。
「こんな場所に連れてきて。俺の傷を刳りたいのか?」
「それも楽しそうですが、今回は純粋な我々の善意ですよ。行弓君は覚えていますか? 烏天狗の最後を……、聞いた話では式神契約を破棄した後に、妖力を全て奪われて消滅したんですよね」
……そうだ、今更何を思い出させる。現場をこの目で見ていた目撃者である俺に、そんな事を確認するまでもないだろう。
「では、その烏天狗の妖力は今どこの誰にあると考えます?」
「そりゃ柵野栄助を吸収した俺の体の中に……あるんじゃ……あれ?」
そう言えば、俺は柵野栄助は俺に全ての妖力を提供したはずだ。それは間違いない、でも何だ? この違和感は? 俺の体の中に奴の意思どころか、波長すら無い……。これはいったい……。
「自分の相棒の癖にこんな事も分からないんですか? ダミーですよ。烏天狗は一時的に体の全ての妖力を柵野栄助に食べさせて、復活可能な分だけをこの山の中に隠しておいたんです。だから烏天狗は消えません。あなたが柵野栄助を吸収したと同時に持ち主に妖力の源が帰ったんです」
「じゃあ……」