表情
「行くぜ、飛鳥。お前を倒す」
俺は手にした大鋏をギュッと握り、突進した。
拘束から解放したのはいいが、地面に降ちたことにより攻撃が上空で飛行している飛鳥に届かない。いくら巨大なサイズの鋏でも、あの距離は無理だ。仕方ない、投げるしかない。
と、飛鳥は考えるだろう。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
だから思いっきり、投げてやった。鋏を折り畳んだ状態で、特に何の工夫もせず、ただ上空に投げた。運が良かった、取り敢えず飛鳥の方には向かった。この攻撃がヒットすれば。
「ヒットする訳がないでしょう」
案の定、回避された。鋏はブーメランみたいな動きなどせず、回転したまま地面に落ちた。十二体の一反木綿を纏い、かなりの防御力を保持する飛鳥が避けた。ようやく警戒くらいはしてくれているということだろうか。
「行弓君、もうちょっと頑張って欲しかったですね。がっかりです」
飛鳥がまた悲しい表情をした。口にはしていないが、どうせ頭の中で俺を否定しているのだろう。飛鳥は無限ループにでも感じているのか、俺の弱さを。大丈夫だぜ、もう俺はお前が思っているほど、弱くない。
「妖力吸収の発動するのは、行弓君自身が妖力を欲する時のみ、なのでしょう。武器と妖力については、弱さを克服したみたいですが、肝心の攻撃がそれでは、総合的に強いとは言えません」
違うぜ、飛鳥。やっぱりお前は相手が俺だと思って、油断している。俺の本当の狙いは、お前を鋏で切ることじゃない。やっぱり、この勝負は俺の勝ちだ。
「火車、今だ!!」
俺の大声と共に、訪れる爆音と砂嵐。そこには、封印の結界を破った戦車の姿があった。
そう、俺はあんな大鋏を作っておきながら、一切鋏に妖力を込めてなかったのである。理由は簡単だ、俺の獲得した妖力を遠距離にいる火車に全て送っていたのだから。大鋏の演出は、妖力逆供給の為の時間稼ぎにすぎない。飛鳥はさっき警戒して、俺の攻撃を回避したが、あの鋏はただの物体と化しただけのお札の塊だったのだから、回避する必要はなかったのである。本当に回避すべきだったのは、この次の攻撃だ。
「砲撃用意!!」
標準を合わせる、この一撃を外すことは許されない。勝んだ、この一撃で。ありったけの妖力を弾に込める。
飛鳥は逃げようとしない、流石に弾丸の速さは避けられないと思ったのか、完全に防御の態勢をとって構えている。だがそれ以上にびっくりしたのは……、やっと、やっと飛鳥が笑ってくれた。待たせてごめん、待っていてくれて、ありがとう。
「発射!!」
飛鳥は弾丸の威力に耐えられず、後方にぶっ飛び、地面に墜落。そのまま気を失った。
次回、三話完