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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
エピローグ
439/462

麻痺

 この数ヶ月間にいろんな場所を駆けずり回って、陰陽師としての強化を図り、死ぬ思いまでして、ここまでの道のりを駆け抜けたというのに。


 「得られた報酬は有り触れた日常だけかよ。あんまりだぜ、こんなの」


 「でも行弓ちゃんは、あんまり自分の為に戦える人じゃないじゃん。困っている誰かの為に戦える人だから。報酬とか考えてたら、こんな日常は帰ってこなかったと思うよ」


 日常が帰って来る事に嬉しさを感じるとは、どこの世紀末だ。確かにスケールは世紀末であったと考えても差し支えないのだが、何もかも終わった今だと、どうも緊張感が体から抜けていった気がしてならない。疾風のように過ぎた時の流れだったからなぁ。


 「はぁ、行弓ちゃん……。少し前まではあんなに格好良い姿だったのに」


 「まあ、こんなダラけた姿の俺がホントの俺だから」


 柵野栄助が起こしたレベル3騒ぎの終幕は有りとあらゆる機関に影響を与えた。陰陽師の本部であった御門城の情勢も、心機一転して息を吹き返し、一度は紐解かれていた地方の機関も、兜の緒を締める結果を生んだ。


 柵野栄助の仕出かした愚行は、振り返った今でも許しがたい事だと思うが、陰陽師の全体的な風潮から言えば、感謝すべき存在だったのかもしれない。あいつがいたから、腐りかけていた陰陽師の世界はまた強固な形態組織となった。


 一番に変わったのは、『妖怪と仲良くする』という考え方が徐々に広まりつつあることだ。緑画高校の組織もそうだが、鬼神装甲の技術を通して抜本から戦闘の心構えを見直す方針になっている。これも新しい党首様のお陰だな。まあ地方には頭の固い連中は腐る程にいるので、今すぐという話ではないが、そう遠くない未来には、また妖怪が子供たちを驚かす時代が到来するかもしれない。


 そして、ようやくこれで、俺の稀少性も消えて無くなった事を意味する。


 「はぁ、暇だな」


 柵野栄助やその他の悪霊に対する感想と言えば、迷惑な外敵だったという意思があるが、まあ両面的な考え方をすると宣言している俺である。奴らのことも労っておこう。


 悪霊がいたから、俺は妖怪と友達になれた。あいつらがいたから、真剣に陰陽師は強くなれた。人間の歴史を進める為には『敵』の存在が必要不可欠である。だから奴らがしてきた事は許さず、存在にだけは感謝する事にした。まあ俺のようにレベル4の悪霊が現れる日々を楽しみのしておこう。一度死んだ人間の蘇生、これが完遂すれば……それこそ世紀末に突入だな。人間が消える一歩前の瞬間かもしれない。


 「なんにせよ、今すぐって訳じゃない。だから気ままに待って、気ままにまた立ち上がればいいんじゃないかな」


 「行弓ちゃんってさぁ、これだから駄目なんじゃないかな。日頃の努力とか、弛まぬ修行とか、いざという事態に備えての準備とかさぁ」


 俺がそんな真似をすると思うか。俺は陰陽師資格を没収されているから、妙な修行とかをちまたでやって地元の陰陽師に怒られたくないのだ。


 「折角、緑画高校の先生が一緒に陰陽師としてこの学校にいなさいって、誘ってくれたのに。そしたら私も授業中でも昼休みでも、御札の中なんかじゃなくて、ずっと一緒にいられたのに」


 「あんな妖怪パラダイスの場所にいたら、自分の存在が価値がないって気付いて死にたくなるわ。もう事件は終わったのに、あんな場所にいる義理はねーよ」


 特に五百機さんにまた監視されたり、鶴見のヒステリックに付き合わされたり、理事長の長話に耳を傾ける事など御免被るぜ。俺はここの方が自由気儘に生きられ…………。


 「いや、残念だけど無理だと思うよ、それ」


 その時だった、パリッっと鋭い音がしたかと思うと、窓から……人の姿が。俺の二階の窓ガラスは粉々に砕け散った。


 「ご無沙汰じゃ!! 行弓」


 亀の髪飾りに、凶暴性の溢れる鷹のような目つき。その万物を馬鹿にしたような高笑いは、只でさえ夏の暑さで脳が溶けそうな俺の頭を麻痺させるのであった。


 「御上よつば!! お前、俺の部屋の窓になんて事を!!」

すいません、また実験で遅れました!!

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