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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十四話
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浸透

 俺には元より偽物の音無晴菜の妖力が備わっている。だから、この力は元来、持ち主の物だ。奴がリーダーに植え付けていた残りの妖力が、丁度今の俺に降りかかった事になる。


 体の中に怨念が吸着していくのを感じる。だが、元より俺の体なんて怨念の貯蔵庫みたいな代物だ。柵野栄助の妖力も全て注入されているのだから。ゆっくり体の中に痛みが、苦しみが、絶望が、入り込んで……その度に消えていく。


 「お前の苦しみの概念を受け止めてやる。昇華してやる。だから……俺の中で永遠に眠れ」


 まるで絵の具のようだった、いくら真っ黒な原液でも、無限に透明な水の中では色褪せて消えてしまう。これを世間では『浸透』という。この途方も無いような許容精神こそがレベル4の真骨頂だ。悪霊でありながら、人間である俺は、妖力を吸収した後に、自制する能力を持っている。思考がおかしくなったりしない。


 俺が人間でもあるから。ただ、悪霊としての妖力を体に貯めているだけで。


 「消えていく……レベル3の怨念が……」


 「そうですね、長年苦しめられた妖力でしたが、ようやく開放されたのかな」


 理事長とリーダーの声が聞こえた。こんな光景はそうそう納得できる事象じゃないだろうな。特にあの二人は俺が死んだ後に蘇生しているなんて、見当も付かないだろうから。


 「はぁはぁ。終わりました。全部纏めて俺の体の中に入って消えたました。これで全てが片付きましたかね。もういいですか? 夫婦喧嘩は?」


 少し倦怠感が残った、息苦しさを感じる。体にダルさだけが残った。当然だ、一人の人間の絶望を体の中に取り込んだのだから。


 「どうしますか? この戦争の両軍の殿様であるお二人方?」


 渡島塔吾、音無晴香。この二人がお互いに目を合わせた。争って、殴り合って、殺し合って、火花を散らしあって。ようやく夫婦だと気が付けた。自分たちに関係のない学校を滅茶苦茶にして、バラバラにして粉々にして、崩落して壊滅して。ようやくに夫婦喧嘩が終わったのだ。


 「もういいだろう。もう充分だろう。もう柵野栄助はいない、これで終わりいいでしょう」


 暖かい風が襲った、まるでこの場の空気が解凍するかのように。殺意が無くなった瞬間だった。勿論、決着などついていない。柵野栄助は消えたかどうかなんて俺にしか分からない、今回の戦争で傷ついた人間が、怒りを覚えている可能性がある。鶴見と牛鬼使いの決着はうまい具合に、『なあなあ』になっただろうか。


 「あんた達が決めるんだ。この戦争の終戦を」


 俺はもうこれ以上に誰かが痛がる瞬間を目にしたくない、死ぬ瞬間なんてまっぴら御免だ。全ての戦いを決着させるには、両軍頭首の鶴の一声が重要だ。


 「緑画高校連合軍。これにて任務続行不可能により、現時刻をもって迎撃を中止する」


 「百鬼夜行メンバー全員に告ぐ。柵野栄助殺害完了した。これにて全軍撤退を申し付ける。直ちに交戦を中止して下さい」


 終わった、深夜20:43分。全戦力消滅に上、共通の敵の抹殺完了につき、ここに笠松高校戦争、これにて終戦だ。もうこれ以上はお互いに『戦う理由』がない。これが誰も死なずに、誰も勝者にならずに、戦争の目的も曖昧になった。でも、この台無し感で充分だ。


 「よし、じゃあ………後片付けしますか」

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