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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十四話
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窮屈

 魂の分離、この時を待っていた。悪霊の存在理由の消滅は、恨みがなくなる事だ。悪霊は怨念を持って羽化し、怨念にて生きている人間を喰らう。当然としてレベル3でも関係ない、ただ感情という利用価値のある代物が付いただけだ。人間の喜怒哀楽はコントロールが出来ても、完全支配は叶わない。怒りを消す事を自ら望んでも思い通りにいかない結末もある。


 では、ここに第二関係者や第三関係者が入ればどうなるか? これが俺の目指す、『仲裁者』の大元となる原理だ。自分では怒りが抑えられなくても、誰かが痛みを分かち合い分散できるなら。愚痴を聞いてすっきりするという、現象が正しくそれだ。


 それか加害者の謝罪。本来、断罪を自分が諦めてしまえば……。初めから悪霊など存在しないのだ。この世にあらゆる蛮行を許せない人間などいない。謝罪、反省、償い、尻拭い。これらを本気で出来るなら。現代社会の人間には、可能性は低い事かもしれないが……ゼロじゃないだろう。


 「待っていたぜ、この時を」


 リーダーは元々、悪霊として生まれてきたのではない。音無晴菜からその体を憑依されてそのような姿になった。だから……本来性を失えば、悪霊の元は居場所を失うのである。


 「さぁ、ここらで終いとしようぜ。悪霊魂さんよぉ」


 麒麟と音無晴菜を纏っていた、黒いオーラが体外へ飛び出してきた。憑依する事が不可能になった。もうこの体から怨念が吸い取れない事が判明したから。その自分の使命をまっとうするには、あまりに窮屈になった。


 ドロドロした液体に変わったオーラは、そのまま塊へと変化し、空中で球体の形状になり静止した。悪霊の卵だ、悪霊が生まれてくる強い怨念を持った前世の魂と同じだ。


 これだ、こいつが俺の倒すべき、意思のない人類の障害だ。

 

 「陰陽師機関、『百鬼夜行』所属。橇引行弓!! 悪霊退散させて貰うぜ」


 あの黒い球体が次に飛び掛ったのは、理事長の方へだった。元より悪霊だった渡島塔吾と合併し、その人格をもっと支配するつもりか。ここまでボコボコにされた理事長だ、少しくらいは恨みを抱えているかもしれない。そこに付け込まれる。


 「させるかよ」


 同じ悪霊の波長で、球体を一気に体育館の天井まで叩き飛ばした。右腕だけが火車、武神モード。さっきの鬼神装甲で身につけた奥の手だ。俺もやってみるまで感覚的にわからなかったが、妖力の波長のコントロールで部分的に使い分けできるらしい。


 「やっぱり偽物の音無晴菜の魂の残りだったか。奴の思念が反映されていない怨念の塊になっているな。まあでも、自分を上手く動かく本体が無いんじゃそもそも欠陥品か」


 あの球体に攻撃できるのは恐らく俺一人だ。本来はまだ何かしらに憑依していない状態の霊体では、陰陽師や妖怪の攻撃は通過しないから。でも、俺は悪霊だ、同じ妖力を体に秘めた。


 「残留物質って言うんだろうな。あんなの」


 「お兄さん、お母さんとの戦いよりも威力が出ていると思いますが」

 

 「そりゃ相手が無生物なら全力で攻撃できるからな」


 球体が憑依の向きを変えた。そうだ、奴が次に狙える場所は限られてくる。救済により、リーダーは駄目。理事長も不可能そうだ。同条件で追継や飛鳥も厳しい。ならば奴はどこに飛び込むか。


 「俺のからだ以外に選択肢はないよなぁ」

 

 俺を支配するつもりか、せめて精神干渉を起こして俺を怨念の増築機に改造するつもりなのだろう。さすが、意識のない残留物質だ。頭が弱いというか、単純というか。俺を狙うなんて愚の骨頂だろう。


 「俺を喰らう気か? いいぜ、やってみろよ」


 俺は降りかかる怨念の塊を避けも防ぎもせずに、頭から被った。まるでシャワーでも浴びるように。黒い液体のような、意思を捻じ曲げる為に存在する、絶望の波長を。


 意思が流れ込んでくる、偽物の音無晴菜の感情だ。母親を守りたい、娘だと認知して欲しい。でて欲しい、でて欲しい、甘えたい、優しくして欲しい、可愛がって欲しい。


 「お前の怨念は元より俺の物だ。お母さんが心配する気持ちだっけ。それで逆にお母さんを苦しめちゃいけないだろう。バカ野郎!! 『浸透溺愛オーブシンクロ』」

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