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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十四話
432/462

正解

 やはり頑張ってはみた物の、この人に思いは伝えられない。拳で語ろうとしても、圧倒的なスピードに間に合う事ができず、一方的なリンチにしかなっていない。俺は何事も無かったかのように回復できる為に、死にはしないのだが。


 やはり決着を付けるには、もっと決定的な一撃がいる。そしてそれは俺だけでは不可能だ。偽物と本物、両方の音無晴菜が必要になってくる。じゃなきゃあの人に言葉が伝わらない。しかし、生身の人間がたった一人で悪霊の戦闘に首が突っ込めるはずがない。


 だから……俺が耐えるしかない。


 「一方的に相手を殴り付けるなんて私の趣味じゃないんですけど。早く私の夫のことを諦めてくれませんか。あんまりあなたとは闘いたくないです。妙に説教が胸に響くし。そろそろ降参していい頃合だと存じますが?」


 そういう訳にはいかない……俺の目的を果たすためには……ここで……。


 「もういいです、少し頭を冷やしなさい」


 遂にリーダーがまっとうな突撃を止めた、少し先ほどよりも多めに助走を取ると、攻撃のモーションに移行せずに、回避のみを続けている。まさか妖力を圧縮しているのか? 一撃を積み重ねた事では俺を倒せないと判断したリーダーが、俺を本気で倒すために、強烈な一撃をする気か。


 攻撃が来なくなった今がチャンスなのだが、俺の大振りじゃやはり当たらない、これでも俺も瞬間移動だったり、光速移動だったりを繰り返しているのだが、元からのサイズの問題と、麒麟という『走る』事の最高峰の存在との競り合いじゃあまりに分が悪い。


 「……心が痛いのは……どこかであなたは夫の愛に気がついているからでしょう。渡島さんが殺そうとしたのは、俺だけですよ。あの人が本気になれば、爆発物とかでこの学校ごと吹き飛ばしているでしょう。それが出来なかったのは、あなたと娘さんが人質だったからだ。それが原因で派手な動きができなかった、暗殺チームを送り込んだ理由がそれです」


 まあ別に俺は人質作戦とかそんな汚い真似を意図としてした訳ではない。状況が結果的にそうなったという話なのだ。やっぱり俺には理事長が家族を大事にしていないとは、思えない。考えにくい。


 「そんな事は瑣末な事だよ。あいつは私を殺そうとした。緑画高校なんて陰陽師育成機関を作って、次世代の合理的な陰陽師を育成するとか言って……百鬼夜行の存在を否定した」


 それは……一件が片付いた後でも、レベル3の悪霊が復活するかもしれないからだ。音無晴香の戦いを今回だけにする手筈だったんじゃ。それに俺達が柵野栄助への切り札として用意していた捕獲不能の大妖怪のように、柵野栄助の抹殺に利用する為の用意だっただろう。実際に封印する所までは成功していたのだから。


 「あいつは全てを私に任せたんだよ。お互いに手を取り合って世界を救うなんて言って、全て私に頼りっきりだった。それが叶わなくなったから、松林を操って汚い真似までした。あいつは私を……あれ?」


 自分でも矛盾に気がついたか、自分の信じていた『正解』が崩壊し始めたのだな。そうだ、今に錯乱しているのはリーダーだ、自分が襲われた事のみに執着し、自分のトラウマに囚われて正常な判断が出来ない。恨みで生命活動をしている悪霊と同じだ。


 「あれ? あれ? あれれ??? ぐっ、うああああああああああ」


 遂にマックスまで妖力を体の全てに纏ったのだろう。金色と漆黒のオーラが不規則に混ざり合い……火車武神モードの胸を一閃で貫いた。跡形もなく崩れ去る死神が壊れたプラモデルのように、バラバラのパーツに弾けていく。と、同時にリーダーの思考も壊れた。


 「ムカつく気持ちはわかります。でもやり過ぎですって」


 言葉はようやく届いた気がする。俺は地面に火車と一緒に倒れふし、ちょっと着ていた緑画高校の生徒服が破れていた。激痛には耐えられる、まあ武神モードはなくなったが、この程度では俺は死なないから。


 それよりも、リーダーの心に変化が現れた。俺を貫いた後に恐らく理事長のほうを振り返ったのだろう、そして、その先に。

すいません!! また実験で遅れました!!!!

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