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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十四話
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愛刀

「その男はね、殺すべき人間なんだよ。そいつは君を殺そうとしただけじゃないんだよ。私と自分の娘を裏切った。私たちの味方をしなかった、私達の言葉を信じなかった」


 そりゃ確率論で言えば奴が考えていた方が高かったから、結果論で言えば我々百鬼夜行の方が正しかったが。未だに柵野栄助の正式な倒し方なんか分からない。俺の体がこうなったのは、全部ただの運の良さだったから。


 「仕事を優先して過程を顧みない父親なんかいらない。晴菜の今後の未来のためにも、教育に害になりそうな奴は排除する」


 これは……偽物の音無晴菜の影響だな。歪んだ愛情が奴の特性だった、本体が死なずに残っている以上は、リーダーにも影響が残ってもおかしくない。


 「だから、それなら離婚するだの、別居するだの方向性はあるだろ!!」


 「あの男がその程度で諦めるとは思えない」


 スゲェ、それだけはごもっともですね。やっぱり精神は捻じ曲がっても、自我や意識が消えない以上は論理的な思考はできるのか。


 「そこをどいてくれ。行弓君」


 遂に本人が物理的な攻撃を仕掛けてきた。俺も慌てて鬼神スキル蓮柱を展開する。リーダーが下切雀を抜いた。両刀でクロスするように居合のモーションになる。驚いたのは移動スピードだった、悪霊ならではの瞬間移動で俺の傍まで切り込んできた。反応が遅れたのは言うまでもない。


 「抜刀……」


 下切雀の特徴は片方が能力を持ち、片方がその能力の対になるように弱体化すること。俺が一本しか刀を握っていないのに対し、彼女は二本。このままじイチかバチかになる。俺は剣道なんて全くの無関係者なので、こんな危機的状況の対処法なんか知らない。


 「くっそ!!」


 比較的に俺の体に近かった右の刀に向かって振り切った。咄嗟の反撃だったので、リーダーも動きが鈍ったと……かじゃないな。俺はまんまとリーダーの策略に嵌った。


 「ぐっ、痛ってぇ」


 左に能力を付与していたらしい、俺の肩から胴体までがザックリ真っ二つになった。そのまま体育館の地面に倒れた俺は、目線を上げる。よく見ると、彼女の右腕も彼方へ飛んでいっていった。俺が……切った。頭に電撃が走る。まただ、この途方もないような罪悪感。そしてその後に訪れる。吹雪のような絶望。


 やってしまった、俺は悪霊として人間を傷つけた。腕を切るなんて……正当防衛じゃ済まされない。過剰防衛どころか、ただの殺人行為だ。言い訳ならある、力の加減が不可能だったとか、俺も瞬間移動のお陰で真面な切り返しが出来なかったとか。でも……誰かを傷つけた場合に理由を言えば助かる程、俺は餓鬼じゃない。


 「おぉ、おとなしさ……」


 名前を辛うじて呼ぼうとしたが、一瞬でまた声が出なくなった。喉が詰まった感覚がある。リーダーの腕はまるでビデオが逆再生するかのように、接地してしまったのだから。よく考えたら俺の怪我も三秒くらいで何事も無かったようになった。


 これってお互いに殴り合っても意味がない? 超回復をお互いに持っている場合に、相手の妖力が尽きた方が敗北する。おそらくその小競り合いなら俺が勝るだろう。俺の目的は勝利じゃない、この人を止めることだ。


 「おや、斬撃なんて効果ないか……。まあ『この世で最も鋭い剣』にしてみたんだが、防御がお留守になってしまった。本当に使いづらい愛刀だよ。ところで何を油断している?」


 え? と思った矢先に何を考える暇もなく、俺の体は体育館中央の方へぶっ飛んだ。麒麟が虎視眈々と俺を狙っていたのだ。真っ向勝負を避けて、連携で攻撃してきたか。まあ顔面を蹴られたので普通なら致命傷なのだが、転がっている最中に回復して、元通りになる。慌てて立ち上がった。


 「本当に物理攻撃が効かないな。これじゃあ肉弾戦は無意味じゃないか」


 いや、激痛はあるのでまったく効果がない訳ではないのだが。


 「じゃあまずは精神攻撃から繰り出そうか? 君は今、何のために私と相反しているんだい? そこの男を助けたいから?」

 

 まあ今の目的を一番に具体的に言えばそれなのだが、もっとアバウトに言うと違う。


 「例えばですよ。その刀の由来に謎って考えますと、『舌切雀』って結構な残酷ストーリーじゃないですか。舌を切るとか、それを恨み返しに不幸な目に合うとか。そういう誰かの不幸な結果がオチで話が終わるのが嫌なんです。お爺さんもお婆さんも雀も、皆で笑って話が終わって欲しいんですよ」

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