行為
柵野栄助に体を奪われて、俺は自分の陰陽師としての力を奪われてしまい、俺の積み上げてきたものを全て失った。だからこそ、帰ってきたこの力が心より嬉しく感じる。俺が失った物がどれほど大切な物だったか、よく分かりました。
「行くぞ、全員でここを突破する」
バイクモードに切り替えた、一気に全員で乗り込むと、一気にアクセルを踏んだ。そして暴走族ではないが、エンジン音で威嚇なんかやってみる。相変わらず三人も乗り込むとバランスが取りにくい、いくら必死でドライブテクニックの修行をしたとしても、こんな特殊な条件では難しい。自由に旋回できない、上手く相手の攻撃を躱せない、直線的な動きしかできないだろう。
何より危険なのは俺だ、以前によつばと乗り合わせた場合と同じように、飛鳥が一番後ろ、追継が一番前。そして運転をする俺が一番前だ。まあ身長差から前が見えるのはいいのだが、もし転倒した場合に巻き込んで地面に落ちるのは確実だ。だって二人共俺に捕まっている状態だから。真ん中って一番、安全に見えて危険なんだよね。それと、その……両サイドに女性というのは……。
「死にたくなかったら道を空けろ!! ここから邪魔する奴は誰だろうと容赦しない!!」
取り敢えずハッタリを叫んでみる、効果は絶大だった。柵野栄助は最凶の悪霊として名高い存在だった。この中にいる奴で殺される不安でいっぱいな奴もいただろう。ついでに脅しをより華麗に演出するために、俺自身の悪霊としての妖力を火炎状に纏い、アメリカ映画さながらの暴走バイクにしてみた。その紫の炎は火車の武神モードの姿にある。
足が竦んで動けない奴、震えて立ち上がれない奴。式神である妖怪の方だけが逃げ出す奴と、それぞれの戦闘不能の姿は様々だった。誰だって自分の命が惜しい、久留間点滅あたりが言っていたな、そんな格言を。
「行弓君。私の知らない間に随分と性格がひね曲がりましたね。いや、手に入れた力が人格を変えたか」
「今はそんな事を言っている場合じゃないだろう、そろそろ走り出すぞ。俺の体のどこかに捕まっておけよ」
追継は前から俺の服を巻きつけるかのように構えた、そして飛鳥は……俺の首を掴んでいる。せめて腰とかにしてうれませんかね。と、言おうした瞬間に自動操縦で火車が動いた。そのいきなりの加速に驚いたのか、飛鳥の握力が上がり俺の首が若干締まる。
「飛鳥、どこ握っているんだ」
「いえ、もし行弓君がそこの幼女にセクハラ行為をしたら、いつでも殺せるように」
「だから今はそんな事を言っている場合じゃないだろう!!」
「お兄さん、今はそんな頭の悪いコメディーをしている暇ではありません」
「だからしねーよ!!」
まあ傍から見たらこの光景は色々とアウトな部分が多いのは認めるし、飛鳥がいなかったら軽く少女誘拐と思われるかもしれない。高校の校舎裏でそんな真似は、変態でも困難だと思うが。あと追継、お前コメディーとかいう単語を使っていたけど、お前の身に迫っている危険はそんなレベルじゃないと思うんだ。俺じゃなかった場合の話だよ、勿論。
そして自分でも気がついてなかったが、いつの間にか連中を撒いていた。まあこの悪霊の力を手に入れた火車の車輪モードを止められる奴なんていないだろうがな。って、これ‥…ブレーキ大丈夫かな……。
第二十三話、完!!
遅れて伝えてすいません。




