執念
「とにかくリーダーがいる場所を探さなきゃ。って何の情報もないよな。走って回るか、それと全員で手分けして……。うん、そんな真似が出来ないよね、だってまだ残党がどれほど残っているか分からないから」
走って回ったら、不意打ちに気が付けない。手分けしたら、囲まれた時に対処でいないかもしれない。まあ全員で動けばそれはそれで危険である。飛鳥と追継は怪我人だし。でも俺が傍にいれば問題ないだろう。
「母の妖力を感知できました。ここから西の方向です。まだ母はリタイアしていないみたいですね。助けにいきましょう」
……そっか、普通に妖力の居場所を探れば良かったのか、戦闘中なのだから容易に感知できるに決まっている。なんかあらゆる事ができるようになったから、視野が狭くなっているかもしれない。
駆け抜けてたどり着いた場所は面来染部と出会った渡り廊下だった。ここで俺はやつと出会い、無様に喧嘩を売ってあやうく学校を火事で焼き切るところだったんだ。トラウマが残る嫌な場所だな。
「ここから西だとすると……体育館か」
「そうですね、あんな四方八方が塞がった場所で戦っているなんて。大型妖怪の援助も受けられないだろうに」
もしかしたら、リーダーは囮になったのか。俺達が安全に隠れておけるように。普通の人間の発想ならターゲットは一番に力がある人間と一緒に行動すると勘違いするからな。しかし、それだけリーダーが無事がどうか危ういという話になる。袋叩きに合ったのではないか。
「でも……そう簡単に行かせてはくれないようですね。見てください」
倒れていたはずのバンダナ連中が起き上がった、木陰に隠れていた奴や、付喪神系統の妖怪の力を利用して上手く風景に擬態していた奴もいる。奴らも死に物狂いだろうからな、目の前にいるのは話に聞いている柵野栄助。俺を倒せば世界を救った英雄だ、陰陽師の歴史の名を刻む絶好のチャンスだろう。まあそういうガメツイの抜きで、純粋な正義の味方も混ざっているんだろうけどな。これだけの執念はなかなか欲望を糧には発揮されないから。
「まるでゾンビ映画ですね、致命傷を負っている方もいるのに。いい迷惑ですけど。誰か残りましょうか、只では通してくれないでしょう。お兄さん、どうします?」
「何を言っているんだ? この場に全員が欠けちゃいけないんだぜ。それに俺は闘う事を止める為に動いているんだ。ここで奴らを相手にしたら、本末転倒だろう」
まあ起きたばかりの振払追継としてはポカーンだろうな。俺は別に相良十次と違って平和主義者でも無かったわけだし。でも今回は、これ以上は誰も傷ついちゃいけないんだ。
「お兄さん? 確かに戦力を失わない事も大切ですが……。何か手段を講じないと通して貰えません」
俺はこの追継の言葉を聞きつつ考えた、そして飛鳥の方を向いた。確認を取るためだ、俺が以前の生前にずっと意地でも守ってきた約束を……破るために。
「…………なるほど、それは『逃げるが勝ち』という話ですか」
「あぁ、戦わないで勝てる。逃げるってここまで凄いことだったんだな。いや、必要なのはタイミングを見計らう事。必要の無い場所で使えば只の腰抜け。格好良く扱えるなら……それは上等手段だろう」
俺たちにはまだ目的がある、ここでの交戦で得られる物は何もない。意地を張るべき瞬間は必ず来る、ここでは必要無い話だ。俺は百鬼夜行に入るまで、何もかもから逃げ続けた、そして百鬼夜行に入隊してからは一回も敵に背中を見せなかった。この極端から極端へ味わった経験からして、ここは……逃げていいと思う。
飛鳥も流石に察してくれたのは、希薄な顔で頷いてくれた。俺との約束を取り付けた人の許可があるなら、存分に逃げても問題ない。未だに飛鳥の顔色を伺っている自分が恥ずかしいが。
「火車!! 久しぶりに車輪モードだ!! 免許無し、ヘルメット無しの三人運転だ!! あの時の悪乗りの再開だぞ!!」
「待ってました!!」




