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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十三話
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奇跡

 時間が動き出した、一度俺は死んだ。目の前が真っ暗になる、死という物を体験する……はずだった。体から何か分からない炎のような物が湧き出てくる。死ねない、もう一度俺は悪霊として生まれ変わるから。


 ★

 目を覚ました、そこには応接室のままだった。俺が死んで復活するのにそんなに時間は経過していないようだな。あの二人と余計に話をしていたから、時間が遠く感じたのだろう。だが、傍にはまだ俺を抱いて泣いている飛鳥と……気まずい顔をしている宝記菖蒲、そして俺が目を覚ましたと同時に不機嫌な顔をした越天仄の三人だった。


 「おい、どうして生きてやがる。しかもなんだ今のは」


 「柵野栄助本体は撃退したと見ていいでしょう。しかし、おそらく柵野栄助の憑依効果で橇引行弓が悪霊として復活したんです。……容姿が変わった理由までは定かではないですが」


 容姿……、あ……。元に戻っている……。あの柵野栄助が憑依した女子高校生が着物を着た姿ではなく、栄助に奪われていた橇引行弓のそのまま姿が帰ってきた。当然といえば、当然か。俺自身が橇引行弓であり、柵野栄助であり、偽物の音無晴菜なのだから。ただ自我を持っているのが、唯一俺だけというだけで。


 「ゆ……き……ゆみくん。もう……戻ったのですか? どうして、元の姿に。いや、それでも……。どうやって回復を……。え……」


 顔は嬉しがっている、そりゃ飛鳥にとっては不可解で理解不能な光景にしか見えないだろう。こんなご都合な状況はもう……奇跡としか表現できないだろう。


 「飛鳥、迷惑かけたな。ずっと手を握っていてくれたのか」


 「えっと……行弓くんですよね? 行弓くんだと思っていいのですよね」


 もう痛みはない、むしろハツラツとした至って健康状態だ。簡単に自分の力で立ち上がることに成功した。色々と自分の体を確かめてみる。俺の制服、俺の体だ。そして……俺の波長だ。俺の元々の貯まりにくい妖力だ。今まで通りが帰ってきたのだ。出来れば越天仄の雲外鏡を貸して欲しい。単純に鏡が欲しいのだ、顔がちゃんと俺なのか確かめたいのだ。


 「行弓ちゃん!! 会いたかったよ!! 行弓ちゃああん!!」


 「あぁ、ただいま。火車、久しぶりだな。また一緒に戦えるぞ」


 そうだ、帰ってきたのは体だけではないのだ。式神契約が元に戻った。今までの不安感が嘘のように消えていく、つたない総合能力で陰陽師機関の同僚や先輩から散々に馬鹿にされたこの力に、これほどの感謝の念に浸ったのは、今が一番じゃないんだろうか。感動、その言葉で俺の胸がいっぱいだ。


 「おい、話が違うじゃねーか。越天さんよぉ。確かレベル3の悪霊に憑依された人間は、そいつも悪霊になるって設定じゃなかったのか。こいつ……人間の波長をしているぞ」


 「……ありえない……」


 それは……偽物の音無晴菜の能力だ。浸透溺愛の能力で俺の人間としての妖力は今も健在なのである。まぁ、悪霊としての妖力も取って余りある程なのだが。

 

 「飛鳥、もう大丈夫だ。今すぐにこの戦争を終わらせてやるからな」


 泣きながら必死に笑顔を作ろうとして出来ていない飛鳥を、なだめるように頭を撫でる。俺を抱くために腰を落としていたので、頭に手を乗せるには丁度良かったのだ。ちょっと調子に乗りすぎたのか、十秒くらいで冷静に戻られて、手を払い除けられた。


 「何をドサクサに紛れて……」


 「いや、精神的にキツかっただろうなぁって思って。優しい気持ちで」


 飛鳥の顔がすぐに元の無表情の希薄な目に戻った。飛鳥もゆっくりと立ち上がると、ため息をついて体制を整えた。


 「ふざ…け…るなよ!!」


 そうだろうな、こいつは狂ったかのように怒るだろうな。越天仄……、劇場が好みの快楽主義者。奴は、日野内飛鳥が俺を殺された事で悲しむ姿を芸術鑑賞のように拝みたかったのだ。そして、次に……俺が悪霊になった瞬間に飛鳥を殺す瞬間を見たかったのだ。そして、飛鳥は悪霊になった俺と戦えなかっただろうから。


 「くそっ、なんだよ、これ!! こんな、こんな、こんあぁあ!!」


 いきなり性格が豹変したな、あの眼鏡。取り乱し方が異常すぎる。完璧に計画が遂行しないと許せないタイプの奴か。これが奴の本性か。


 「おい、越天!! どうしたんだ!!」


 「絶対に許さないぞ、この屑役者共が!! 鬼神装甲!!」

 柵野栄助 能力説明②


 柵野栄助は初のレベル3に進化した悪霊である。

 原因は定かではない、そこから生まれ、どんな許せない恨みを持ち

 どんな過去を持つのかも。ただ虚ろな世界の転換期として、

 現れた悪霊なのである。

 意識を持ち、他の悪霊や、封印された悪霊をレベル3に

 能力を付与し、レベル3にする事ができる、

 それは新たなる精神の誕生、生命の進化。

 会話能力、仲間意識、主従関係など本来に無かった姿を持つ

 いわゆる、社会という物を形成した悪霊である。

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