双子
俺の妖力吸収が発動したのは日野内飛鳥と交戦をした時である。まさしく不思議で不可解で不自然な現象だ。あの時はあまり深い考えを巡らせ無かった。まあそんな事もあるのか、程度にしか考えてなかった。それから烏天狗がまた舞い戻ってきて、俺は接近しなくては発動しない危ういこの技術を切り捨てた。
異常性に気がついたのは柵野栄助に能力を強奪されてから。今までに考えが及ばなかった異常現象に恐怖を感じた。いつかは解決すべき謎だったか、正直この四ヶ月が嵐のような時間の過ぎ方だったので、自分に関する研究なんぞに時間を避けなかった。
「待て、頭が混乱している。落ち着かせてくれ、冷静になって事実確認がしたい」
死ぬ一歩手前の瞬間で、ここまで精神統一することになるとは、俺ってツクズク一般人じゃ絶対に体験できないような、想像絶する不幸を味わっているよな。
「柵野栄助ですね、こんにちは。よくもお母さんの手を患らわせてくれましたね。橇引行弓と共倒れになる前に私が殺してあげましょうか」
「おいおい、私は時間がスタートしたら次の瞬間に死ぬ存在だぜぃ。そんな可哀想な悪霊に追い打ちをかけないで下さいよ」
俺をそっちのけで二人でよく分からない話をしている。さっきからお母さんなる人間が会話にいるが、音無晴香……リーダーの事だろうか。それにしても、あの自信過剰で俺様主義が全開だった柵野栄助に対し、こんな態度取らせるなんて、一体あの振払追継はどんな悪霊なんだ。
「待ってくれ、お前は……じゃあ……音無晴菜の姉なのか?」
「姉? 違うよ。強いて表現するなら、双子の関係かなぁ。まあそれもちょっと違うけども。私は『有り得た可能性』の音無春菜だよ」
あーもう訳が分からない。なんか変な言い回しをすれば賢いとか思っているのだろうか。
「お前が俺に妖力吸収の能力をくれた張本人なのか。いったいどんな意図があって俺なんかに渡したんだ。お前の狙いは何なんだ」
「狙いって……私の行動目的はいつだって貫徹してお母さんの為だよ。私はお母さんの利益にならない事はしない。私は『浸透溺愛』は、君が今まで悪用してきたように、妖力を吸収する能力だ。君の場合は用途が違うけどね」
意味合い……どういう事だ……。浸透溺愛ってなんかネーミングから嫌な予感しかしない名前だが。俺はこいつからいつの間に危なげな能力を授けられたのか。
「私から能力を説明するよ、音無春菜の浸透溺愛は相手から妖力を奪う物ではなく、誰かと妖力を分け合い、共存させる。簡単に言うと機械同士の接合ケーブルみたいな意味合いなんだ。私も知ったのは、最近になってからだ」
ケーブル……まさか、接近して相手の体に障るというデメリットは、意味合いの相互から生まれた事だったのか。本来は『同意の上で行う』から、接続が必要だった。そういう用途か。
「お互いの妖力を浸透させて、本来は妖力の交われないお互いが、波長を揃えて闘うための代物なんだよ。そうする事で『人間と妖怪との契約』を崩壊させる事が出来る」
妖力を浸透……、つまり陰陽師と妖怪と悪霊、この交わることのない性質の三つが融合して扱う事が出来るようになるという事か。究極的に言えば、陰陽師が陰陽師を式神にしたり、陰陽師が悪霊を式神にする事ができる。こんなフザけた事が本来の用途だったなんて。これがあの一連の不可解の正体だったのか。
「待て、肝心な部分が謎のままだ。百歩譲ってお前の能力がその通りだとして、どうして俺がそんな能力を受け継いでいるんだ」
柵野栄助はそれを遺産と表現していた、これではまるで偽者の音無春菜が死んだみたいな表現じゃないか。奴は現に目の前にいる。
「それにはちょっと遠回りな説明が必要だね。まずさ、私と柵野栄助だけはちょっと特殊でね。能力が元々、レベル3の悪霊として備わっていて、その上で進化した能力だと言うこと。私は『浸透溺愛』、栄助は『闇忍搭乗』」
これは分かる、柵野栄助は『憑依』、音無春菜は『妖力吸収』の能力を持っている。だが、基本の設定としてレベル3の悪霊にはこれらの機能が備わっているのだ。そして元々、備わっている能力が強化された感じが、こいつらだ。
「それだけ、下手にパワーを分散させずに、悪霊の備わっている部分を強化したから、威力は抜群というわけなのですよ。案外、ゼロから生み出したチート能力よりもコスパがいいんだ」
確かに綾文功刀とか久留間点滅とか、能力が最強だったからこそ、自滅している部分があった。これが代々に渡り発展してきた悪霊の歴史の集大成、能力は最大限に発揮するように進化する……の原点か。
「君は知らないと思うけど、私は二度、君に接触しているんだよ。一度目は君がこの山へ私のお母さんとピクニックにいった時だよ、あの時は私も上手く実体化してなかったから分からなかったかも、悲鳴をあげていなくなっちゃったし」
それだ、俺はその記憶がある。今の話ではっきりと思い出した。リーダーは確かに俺が入隊した頃に、笠松陰陽師機関にいた。そして俺は初めて烏天狗に会いに行った時に、こいつと出会ったんだ。俺が初めて悪霊に会ったと思っていたのは、こいつだったんだ。どんな因果だよ。
思い出せ、もう一回あるはずだ。
「二回目は、朝早くの出勤時間に。私が錯乱し混乱し暴れている時に、私は君に出会った。私が体当たりで陰陽師施設を破壊した時だよ。かつて小学生だった橇引行弓が職場にきたんだ。嫌そうな顔をしていたよ、さぞ面倒そうな顔をして。あの時は完全に私の不意打ちだったから気が付かなかったと思うよ。そこで私は君を腹の中で確認したんだ」
心の中の記憶の引き出し、こいつの憑依していた人物……おそらく音無晴香だろうが、そこに俺の記憶があったのだ。そしてこいつは妖力の量とかから、俺を認識した。
「そこで私は……君について考えた」
すいません、伏線回収が終わりませんでした。
でも結構、話の内容は進んだと思います。
柵野栄助の能力がわかりづらいという指摘を受けました(知り合いから)
明日のあとがきで説明します。(簡単にいうと『無敵状態の憑依』)
二人の能力が一気に公開で、これで全員の悪霊の能力が開帳じゃないかな
お察しの通りですが、ここから一気に完結に向かいます!!
そういえばフラグとして、おばあちゃんである音無晴江の、最後に託した言葉が残ってた。ちゃんと回収します。おい、忘れるなよ作者……
今回の話はわかると(=^▽^=)面白い部分だと思うので、
どうぞ感想なり作者にクレームなりお越し下さい
前半部分、読んでないけど、こいつの能力とか過去って何?
とかも受け付けます、大歓迎ですよヾ(*´∀`*)ノ