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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十三話
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地獄

 ここがどこなのか? 昔の俺なら分からなかっただろう。周りには木々が生い茂げて、雲ひとつない青空が綺麗に広がっている。美しい葉はそよ風に揺れて幻想的な音を奏でている。邪気など感じられない、澄み切った……俺と烏天狗だけの空間だ。


 「ここは、烏天狗の山か。柵野栄助が潜伏している場所だよな。でも、俺の予想ではお前はもう既に移動していると思ったんだが。こんな場所で何をしているんだ? 柵野栄助?」


 俺が死んだ、越天仄なる女に背中を一突きされて出血多量なのか、内蔵損傷だか知らないが……とにかく俺は視界も意識も痛みも……何もかもが消えた、はずだった。だったここはどこだ? 天国か? でも柵野栄助は目の前にいる。俺が悪霊として地獄へ転生したのか? じゃあこの空間はなんだ? どうして烏天狗の山が俺と奴を閉じ込めた?


 「あの……俺を意識だけの世界に閉じ込めた時にもそうだったけどさ。お前ってどうして、俺をそんなに無視するんだ? 敵対関係だろうが話さないと一歩も前に進まないだろうが」


 …………駄目だ、目の前にいる。元の俺の体を持った悪霊は俺の方を振り向く気配は一切ない。で? 俺に背を向けて何をしているのかというと……、指を噛んでいる。血が垂れ流れる程に。顔は真っ青で目は真っ赤、なんか悪霊としての恐怖映像というより、狂乱した人間の恐怖映像に見える。現実味があるような、情けなさが伝わるというか。体操座りでうずくまって指と口以外は何も動かさない。


 「おい。人の体で遊ぶの止めてくれないか? もうお互いに死んじまったんだから、体を返してくれよ。天国だか地獄だか知らないが、もうこの世界は死人の世界なんだ、お前の無差別殺人が出来る対象はいない。だから、もう勘弁してくれよ」


 …………依然として無視、いっそ清々しい程に。相手にしていないというか、俺の言葉を聞く余裕などどこにもないって感じだ。だが、なんだろう。この胸にある違和感は。死んだのか…………俺は?


 「ど…ど…ど…ど…」


 ようやく会話する気になったかと思いきや、また挙動不審かよ。


 「どうして人間は……ここまで強い? 握力は猿に劣り、噛み付く力は犬に劣り、視力は鳥に劣り、聴力は蝙蝠に劣る。頑丈さは象に劣り、脚力は鹿に劣り、寿命は亀に劣り、繁殖力は微生物に遥か劣る。どうして地球上で最も脆弱なお前たちが……我々を全滅させた?」


 賢いから? それは違うだろう。レベル3の悪霊は考える力を持っていた。久留間点滅は、終始しゅうし俺を挑発し、面来染部は自分の判断で柵野栄助を裏切った。こいつらは俺たち人間よりも遥かに賢い。


 なら感情があったからだろうか。それは違う、綾文功刀は人間技とは思えない程の激情を持って生きていた。残りの連中だってそうだ、こだわりがあって、譲れない物があって、愛があった。そこで俺達が優っているとは思えない。


 「私は人間よりも遥かに優れている。あらゆる限界を超えた最強の個体だったはずなのに。私は……呆気なく惨敗した。緑画高校なる連中に閉じ込められて、音無晴香に仲間を削られ、君に少ない仲間を消され、気がついたらこのザマだ。善戦どころか……お笑い草じゃないか。何が『ひれ伏せ、人類』だ」


 えっと……愚痴? もしかして途方もない話されてる?


 「橇引行弓……君って奴は。どこまで基本設定を知らないんだ。ここが地獄? 天国? 甘ったれるんじゃない、悪霊が満足に神様、仏様の加護に連れて行かれるはずがないだろう。閻魔大王様もお断りだろうさ」


 そんな事を言われても、理不尽だとしか思えない。俺が悪霊になったのは完全に不幸な事故だし、俺は生前にも、悪霊に変身してからも誰も殺してないし。ちゃんと審判されていないんじゃないか、閻魔大王様はもっと俺のプロフィールを確認して、公平かつ適正な判断を下して欲しい。


 「だから……君が死ぬ直前に時間を止めて、意識だけの世界に逃げ込ませたんだ。私は君の心の引き出しを利用できる、思考も経験も記憶も心も、全て共有している。だから一緒の世界に逃げ込める」

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