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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十二話
410/462

嗜好

越天仄の異常性は規模はともかく種類としては、珍しい類ではない。情熱がある人間ならば特に感じる瞬間は多いだろう。気持ちの良い勝利よりも、ギリギリの接戦を楽しみたい。平凡な日常の物語などに興味は無い。仲間が次々に死に、裏切り合いが続く。不幸が想像を超えるのが、読者としての嗜好の喜びだ。奴の腹の中はそんな『劇場』でいっぱいなのだろう。


 「やっぱりいいですね、誰かを抱きながら涙する瞬間。この胸を張り裂けようとする感情の豪胆、まるで底の無い沼に沈んでいく感触。他人の不幸というのは美しい物ですね、まるで夜空に散った流れ星のようだ」


 例えがよく分からない、だがこいつがその辺に住んでいるサイコもどきよりもずっと危険だという事は分かる。こいつは性格が陰湿で腐っているタイプの『他人の不幸は蜜の味』って奴じゃない。『他人の不幸は最高傑作の芸術品だ』って言って眺める感じだ。悪戯いたずら心ではなく、大いなる讃頌さんしょう。芸術に対する惜しみない拍手のような溢れ出る気持ち。


 「さぁ、これでフィナーレです。彼女が死ぬ様を見届けて下さい。腕の中で抱いて、可哀想な彼を慈しみながら」


 こいつの何が気に入らないかってさ。さっきの怪力女と違ってこいつは俺の事を悪霊としてではなく、人間として考えていた事だ。飛鳥の事を気遣った判断などではないのである。奴は俺が悪霊だとか関係なく、飛鳥を標的にしたのだ。俺が死ねばなんでもよかったのだ。


 だからこそ、陰陽師の裏切り者である日野内飛鳥を殺さない。必死の懺悔を眺めるために、不幸の悲鳴を聞くために。ここで飛鳥を殺してしまっては、奴にとっての終末のシーンが台無しになってしまうから。


 「おい、お前……。何を考えてやがる」


 「いいじゃないですか、目的は柵野栄助の退散でした。これが完了したならば、あとは自由時間でしょう。引きつけ役の囮、お疲れ様でした」


 ……宝記菖蒲が目線を逸らした、自分が正義の味方である以前に陰陽師だった事を思い出したのだろう。奴の任務は俺の殺害、それが叶った今に、越天仄を責める理由を失ったのだ。


 「雲外鏡は自身のパワーは少ないですが、とても私好みの能力を持っていましてね。『なんでも好きな物を映し出す力』と『真実を突き付ける力』です。これが何を意味するか」


 奴が御札から雲外鏡を取り出した、そこには童心溢れる可愛らしい容姿の鏡が現れた。まるで馬鹿にするかのように舌を出し、少しくねったような眼球をしている。ひらひらと空中飛行をして俺たちの目の前にきた。


 「さぁ、今からお二人の姿をこの鏡に映します。この鏡の映る姿が私の作った嘘なのか、それとも本当のあなたの姿を写した本当の姿なのか。自分の目で見て、死にゆく際に確認して下さいね。それではお疲れ様でした」


 雲外鏡がユラユラと動いていたのが静止した。そして……その鏡の中に映ったのは……。隣にいた飛鳥も驚嘆した顔を見せる。俺は顔色を帰る力も残っていなかった。そこに映ったのは、案の定。


 白い服、黒い長髪、長い爪、狂った目、死人の顔。悪霊としての俺の姿だった。


 飛鳥は頭の中で否定しただろう、これは奴が作り出した紛い物の映像だと。だが俺としては納得してしまった、これが俺なのだと。この悪霊になりきった姿が今の真実の俺なのだと。


 痛みが……死ぬ痛みが……消えた。


 ★

 「…………………どうしたんだよ、お前」

 二十三話、完!!


 遂に死んでしまった行弓君!!

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