利点
五行全ての属性を持つ利点とは、はっきり言って無い。普通に考えたら。
この利点を理解するには、戦闘という物を正確に理解することが必要だ。まず陰陽師同士の闘いに限らず、人間は古来より闘いという物にある基本法則を見出していた。心術・技術・体術のこの三点である。
まず俺は体術が駄目だ、陰陽師において体術とは妖力のバッテリーである。俺はその妖力が五つに分裂しているのもあり非常に乏しい。
次に技術、これは一週間前に先生が言っていた、複数の式神を利用し戦えるかとか、鬼神スキルに相当する。俺は現在、火車一体としか契約していない。鬼神スキルも上手く使用しているつもりだが、所詮は逃げと回避の為の能力であり攻撃には全く生きてこない。
だが、心はどうだろうか? 俺は弱い、それは誰よりも俺が自覚している。だがら俺は必死になって勝つ方法を考えている。確かに五行全ての陰陽師とは絶望的な設定だが、だからこそ俺は相手を軽視したり、油断したりはしない。防御力も無い為に、一瞬も気を許せない。だがそれは闘いに集中している、ということだ。俺が諦めない限り、その他のメンタル的な問題は無い。
先ほどの飛鳥が良い例だ。どんな天才でも、どんなベテランでも、油断というものが存在する。俺に逃走時間を与えたりなど、本来の飛鳥なら絶対にしない行為だ。だが俺が相手なのでついやってしまった。だって俺の弱さを一番良く理解しているのは、幼馴染である飛鳥なのだ。それは威嚇だったのか、同情だったのか分からない。とにかく何かしら飛鳥が油断してくるのは予想が着いていた。
そう、俺が飛鳥に勝てる理由としたら、そこしかなかったのだ。
俺が弱すぎて、飛鳥が強すぎること。この歪な幼馴染の共通認識が、この結果を招いた。
「完成、名付けて炎の大戦車」
一反木綿の三体に上空で巻きつかれ、吊るされていながら、俺は笑った。声に出さず、静かに、表情だけで。角度が悪い為に、飛鳥がどんな顔をしているか、垣間見ることが出来ない。見渡すと、いつの間にか増えている妖怪達が大歓声を挙げている。先生は唖然とした顔をしている。勝った、そう思った。だが最後に不安要素が……。
「行弓、お前はやっぱりニート症候群じゃ」
なんとなく自然に聞こえたよつばの声、だが俺がその言葉の意味を理解する前に、現実は俺を裏切った。
戦車モードの火車連合に残りの一反木綿の何体かが近づいていく。だが接触まではしない、戦車の周りをぐるぐる回るだけだ。
「まずはこの拘束から俺を助けてくれ」
その声と同時に動き出した火車。しかし、その数秒後、何故か動きを止めてしまった。
「あれ、どうした!! 何が起こった!!」
火車は完全に動かなくなり、一反木綿の回転運動から作った円から紫色の光が戦車の周りを覆う。何が起こったか理解した時には遅かった。飛鳥の透き通った声が響く。
「封印」