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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十二話
408/462

経緯

飛鳥は意に反して立ち上がった、宵氷で勢いだけでも殺せていたのが功をそうした。だが、決して傷は浅くないだろう。奴の攻撃は当たらない代わりに、一撃が致命傷になる。


 「なんですか、やれば出来るじゃないですか。そうです、闘いというのは、自分の為ではなく、他人の為に闘うものです。行弓君を殺させません」


 飛鳥は俺の事をどう思っているのだろうか、俺が悪霊になった事を否定的に考えているのか。それとも分かった上で、俺が元の人間に戻るという俺の希望を、一緒になって信じてくれているのか。


 「おい、そこの女は悪霊だ。殺さなきゃ人類に未来はない。どうしてお前はそいつを庇う。どんな大義名分が隠されているんだ?」


 「彼女は悪霊に憑依されただけの被害者です。元の悪霊を倒せば彼女は人間に戻ります。ならば、殺すべきは彼女ではなく、この場所と別に潜伏している柵野栄助ではないんですか?」


 「柵野栄助は史上最悪の悪霊だ。倒すのは極めて困難であり、そこの憑依された奴を殺せば、柵野栄助は死ぬ。一番、手っ取り早い方法だ。それに元の人間だった橇引行弓って野郎は腐っても陰陽師だったんだろう。これからの犠牲とそいつだけの犠牲。優先すべきは明らかだ。陰陽師になった以上はそいつも覚悟を決めていたはずだ。だから綾文功刀との戦いで命を落とした。それだけの話だ」


 綾文功刀との戦いで俺は死んだ事になっているのか。松林め、俺を一応立てる事で自分の『せめてもの優しさ』を百鬼夜行に見せつけているのか。気色の悪い真似をしやがる。まだ俺は死んでねーよ。


 「綾文功刀? あぁ、行弓君が悪霊に体を奪われた時に交戦した相手ですよね。でも体も意識も消えていないのに、死んだ人の扱いはいかがでしょう」


 「人間じゃなくなった時点で、死んだも同然だ!!」


 人間じゃない、この言葉があまりに言葉に響いた。自分で自己認識するよりもずっと感情に訴えるものがある。俺はもう人間じゃない、意識が飛んで完全に悪霊になってしまったら、日野内飛鳥を攻撃するかもしれない。今に命懸けで俺を庇ってくれている飛鳥が。


 今、俺が生きようとしているのは、俺の只の我が儘……。


 「それでもお前はこの悪霊を庇おうっていうのか!!」


 「彼は、彼女は被害者です。橇引行弓は本部を通して陰陽師として登録していません。既に除名をされ、一般人と同等の扱いを受けています。百鬼夜行は陰陽師組織としては認可はされてません、それも交渉用の人質として捕まっただけなのです。もし、綾文功刀との闘いで彼が負傷したなら、我々陰陽師が関係のない一般人を守れなかったのです、罪を被る対象は我々です」


 飛鳥……それは奴には効かないかもしれない。だって陰陽師機関は阿部清隆の死により完全に崩壊した。今までの規則と厳格さにより構築されてきた陰陽師の世界は消え去ったのだから。一般人がどうなろうとこいつらが構うものか。それにどんな経緯いきさつがあろうと、俺が悪霊になった限り、あっちが正義で、俺が淘汰されるべき害悪だ。


 「いい加減にしろよ!! どうして分かり合えないんだ!! お前にに取ってそいつは何なんだ!!」


 「唯一の友達で、数少ない同僚で、私の幼馴染ですよ。だから……」


 _______サクッ。


 その時だった、忘れていた頃にあいつがやってきた。あの眼鏡、いつの間にか俺の後ろに立っていた。そして……俺の心臓を先ほどの蓮柱で。


 貫いた。

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