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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十二話
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塩梅

人形女と飛鳥がそう呼ばれたは所以ゆえんは貫徹した無表情にある。滅多に笑わず、滅多に苦しんだ顔を見せない。喜怒哀楽を示さないので会話が続かない。人間のコミュニケーションの七割以上は相手の表情や仕草で判断しているらしい。百聞は一見に如かず、言葉の価値よりも仕草の価値の方が高く評価しているのが人間だ。


 だからって、飛鳥は何も考えていないのではない。寧ろ飛鳥は人一倍に考えを張り巡らせている。なんでもベラベラ喋る人間ほど実は頭に何も考えていないのだ。


 「テメェ、ふざけた真似を!!」


 宵氷の効力が消えた、一定時間の一歩も動けない拘束状態は終わり、拳が遂に飛鳥の胸に響いた。そのまま勢いを殺せずに、壁面に叩きつけられる。どうしたんだ、飛鳥が感情に任せてあんな真似をするなんて。


 「何をこの私に向かって説教してやがるんだ、気持ち悪い。そんな情けない精神だから……お前はそこの悪霊を殺せないんだろうが!!」


 俺のことなのか、俺を殺そうとしない飛鳥を批難しているのか。


 「そいつはもう駄目だ、悪霊になったんだ!! もう絶対に助からないんだよ!! 何を死んだ死体を必死に守っているんだ!! お前が悲しみで殺せないなら、私が代わりに殺してやるよ!! もう立ち上がるな!!」


 俺はもう人間じゃない、俺は悪霊だ。飛鳥の決死の行動は宝記菖蒲に特別な感情を植え付けて、そして本来有り得なかった感情で、飛鳥のそぐわない形で芽生えた。


 いわゆる同情……、人間としての純粋な『優しさ』。


 飛鳥は宝記菖蒲に気がついて欲しかった、一部の人間を多角的な視点で認める事を。陰陽師の概念が崩壊して、妖力を持った人間がどう生きていけば分からない。そんな混乱に満ちた荒野のような世界で、本当の先導者は誰なのか。気がついて欲しかったのだ。


 でも宝記菖蒲はそうはならなかった。結果を言うと真逆になった。飛鳥の意見を参考とせず、狂っているのは飛鳥の方だとした。陰陽師の概念の崩壊の矢先に悪霊に騙された可哀想な少女と思った。飛鳥の情熱を理解した上で、自分を正義の味方と位置ずけたのだ。


 団体戦での手柄とか、陰陽師の頂点に立つとか、そう言った個人的な利益を示唆した裏付けではなくなった。もしかしたら、あの眼鏡が良い塩梅になったと考察する。鏡があると身だしなみを整える、自分の間抜けさか顕著に表れる。この土壇場で世界を守る正義の味方になったのだ。


 ただし…………あっちの角度アングルでな。


 「もうやめろ、お前の目の前にいるこいつは幻想だ。間違った世界の住人だ。お前の仲間はもう死んだんだ!! 悪霊に殺されたんだよ。だからもう未練を捨てろ!! もうお前の知り合いは帰ってこないんだ!!」


 違う、俺は帰ってくる。人間に戻る、人間に戻れるはずなんだ。


 どうやって宝記菖蒲を否定する? 俺はどうやって人間に戻る? 

 俺は柵野栄助じゃないと、どうやって説明する? 

 俺は悪霊じゃないと、どうやって断言する?

 

 俺が元に戻れなかった場合、俺は皆を騙し、裏切ることになる。もしも、俺が自我を完全に失って悪霊に覚醒したら、もし俺が次々に人々を殺し始めたら。もし俺が大切な人を殺したら。もし俺が世界を終わらせたら。


 自分が人間である事にシガミツイテイル事が……間違いか。

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