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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十二話
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灰皿

泥田坊はそんなに攻撃に適している妖怪とは言えない。奴は働かないダメ息子を戒める為に、父親が田んぼから化けて出たという発生と呼ばれる。牛鬼やガシャドクロと違い、そんなに悪名高くもない普通の妖怪だ。


 「そんな妖怪であってもここまでの力になるのか」


 「さぁ、柵野栄助を殺して手柄をあげるのは、この私だ!!」


 泥の鼠色の鎧を着た女がまた突進してきた、能力が防御と再生特化なだけに、その他の意地の悪い能力は無いらしい。使い手の菖蒲とかいう女、性格が単純そうだな、細かい事を考えて闘う奴じゃないな。むしろそういう闘い方をするのは、後ろでほくそ笑んでいるだけの眼鏡だろう。


 「だから、そんな単純な拳じゃ無意味ですよ」


 「はっ、雑魚ほどつまらない小細工にすがり付く宿命なんだよ。私は強いからそんな手間のかかる事が嫌いだ。小細工を捨てて速攻に叩く、罠を張る前に拳を構える。お前らのゴミ戦法じゃ、私を止められない」


 今までの俺達の戦いを否定する事を言ってくれるな。敵にも味方にも、ここまで単純な動きをしてくる奴は……いや、待て!!

 

 「追継!! 気をつけろ!!」


 この状況、単純に持久戦にもつれ込むと追継のほうが不利だ。奴は回復能力を使って、致命傷を避ければ何回でも立ち上がる。だが、奴の強みはそれだけじゃない。反復し、繰り返し、学習し、洗練リフレインする。奴には回数を挑む事で、使う選択肢を切り替えて有効手段を探るという強みがある。


 「まことの拳法家が仕込むフェイントは一回だけ。たったひとつだけを片手に闘う。その煌く一瞬は、その一個の歪みで決定的な決着を誘う。幾多の罠など不要、私のフェイントはこの一回だけだ!!」


 ここは応接室、様々な状況を想定し机の上にはペンやメモ帳が置いてある。そして……俺たちは、その机を移動させドアの前に壁として設置した。だが、それが仇になった。俺たちは回収しそびれたのだ、床に落ちた灰皿を。


 「おらぁ!!」


 とても女性とは思えない豪快な蹴りは、地面に落ちていた黒色でプラスチックの灰皿を軽々と宙に浮かせた。中に溜まっていた汚い灰や吸殻が追継の視線の先に飛び散る。そして、追継が灰皿を刀で払った時には…‥目の前に拳が飛び込んでいた。


 「追継!!」


 見事に拳は一直線に突っ切った。だが、狙い通りという展開でもかなったみたいだ。その攻撃の先にいたのは、追継ではなく……五百機さんだった。灰皿の存在をいち早く察知して、追継のヘルプに来たのだ。問題は真面なガードの準備ができなかったことだ。これじゃあただ五百機さんが追継を庇っただけの構図なのである。


 その拳は容赦なく五百機さんの懐を貫いた。そのまま勢いで後方の追継も攫い壁に激突する。鶴見の起こした爆音に負けないくらい酷い音がした。そのまま五百機さんはまるで咳き込むかのように口から吐血している。やっぱり受身が叶わなかった。


 「五百機さん!! 大丈夫ですか!!」


 「おっと、青髪から始末したか。まあいい、これでチビも下敷きだ。どんどん身を守る壁が消えていくなぁ、柵野栄助さんよぉ」


 五百機さんの事だ、自分に責任を感じていたのだろう。幻覚がバレてここにいる全員を危険に晒したこと。狙われたのが、百鬼夜行のリーダーの娘で怪我をさせられないと思ったこと。きっとその心の重責で庇いに入ったのだ。


 「てめぇ、絶対に許さねぇぞ。俺が狙いなんだろうが!! こいつらは関係ないだろうが!! 小学生相手になんて真似しやがる!!」


 「小学生だろうと、反逆者は殺すのが陰陽師のルールだ。悪霊に肩入れする小学生など、人間として扱われなくて当然だ」


 …………俺の頭の中のブレーキとかブレーカーとかが壊れた。相手が誰だろうが、関係ない。能力がないとか、式神がないとか知った事か。こいつは俺が。


 「やれやれ、落ち着いてください。五百機さんとか言いましたか。大丈夫ですよ、彼女は結構、賢いですね。上手く体を捻ってました。ダメージを最小限に抑えるために。壁に激突した痛みのほうが大きいんじゃないかな」


 …………飛鳥。黙って俺達の掛け合いをそこの眼鏡同様に観察していた日野内飛鳥が、ここにきて前に出た。これは……経験で分かる。飛鳥は表情をあまり顔に出さないが……これは……マジで怒っている。


 「子供に灰皿を蹴飛ばす奴も人間扱いされなくて当然ですよね。幼児虐待で人間としてあなたを粛清します」


 「誰だ、お前。百鬼夜行にこんな野郎いたのかよ。まあいい、これも私の株をあげる余興だ、撃墜数が増えて嬉しいねぇ。苫鞠とままり陰陽師機関所属、宝記菖蒲たからぎあやめだ」


 「笠松陰陽師機関、日野内飛鳥。推して参ります」

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