半減
直感で分かった、俺はあの三人の事が嫌いだ。初めは先入観で否応なしに強要されて、しぶしぶ松林の部下になったと錯覚していた。だが、あの三人組はそんな理由で部下になったんじゃない。松林が手に入れようとしている利益を掠め取ろうとやって来た蠅みたいな連中だ。
「少しでも前たちを可哀想とか同情していた俺が間違っていたよ。お前たちもそっち側の人間か。理事長とかとは闘う理由が違うんだな。でも、これで心置きなくこっちも倒せるってもんだよ」
「果たしてそう上手くいきますかね。菖蒲、いきましょう」
「指図するな、私は私のやり方でこいつらを殺す!!」
確かに小隊というのは大げさだったな、あの三人に連携なんかないんだ。今までは奴らの連携攻撃を心底に警戒していたが、合わさった攻撃とかテンポをズラすとか、そういう心配は無いな。まあそれにより、片方が仲間を巻き添えにした無茶苦茶な技を仕掛けてくる可能性があるが。
「うおぉぉぉ」
真ん中の初めから鬼神装甲を纏っていた女がこちらへ突進していた。あいつ、さっきから拳での突進しかしていないが、随分と真っ直ぐだな。大勢同士の対決ならまずは遠距離攻撃がセオリーだろうに。何を考えてやがる。そして後衛にいる眼鏡が一切動かない、何を狙ってやがる。
「防いでくれと、言わんばかりですね」
今度は追継が防御ではなく攻撃に打って出た。鞘から下切雀を二本とも同時に抜き居合い斬りをした。抜刀術、日本刀を鞘に埋めた状態で帯刀し、鞘から抜き去る動作で一撃を与える。仮に躱させれても、二の太刀で相手を切り裂きトドメを指す。技術がものをいう武術だ。リーダーも面来染部との戦いで、この技術を利用していた。
だが、先にも述べたように一本だけを先手に抜くから効果のある術である。二本目も同時に抜けば、効果は半減だ。この思い切った動きができるのは下切雀の特性にある。下切雀は両刀として使わなければ効果を発揮しない。逆に両方で使用すれば、通常の妖力で強化された拳などでは相手にならない。
追継の刀は見事に命中した。左の刀が敵の拳をあっさりと抜き去り、受け止めさせることなく、鎧を切り裂いたのだ。おそらくあれは速度強化。左の方を『世界で最も遅い刀』にする事で、左の刀を『世界で最も速い刀』にした。この片方を犠牲にする事で、もう片方に絶大な力を与える。双剣としての意味を皆無にさせてなお、双剣という形でしか成り立たない刀こそが下切雀なのだ。
「居合斬りですか、それも双刀で。江戸時代の武士が習得すべきとされた武芸十八般のひとつですよね。あの思い切りの良さ、素晴らしいです」
「何を偉そうに語ってやがる、そこの眼鏡。とっとと手当してやれよ、そいつ、死んでしまうぞ。お前がやらないなら俺達がやっておくからな」
「ご心配なく、菖蒲さんは『しぶとい』のだけが取り柄ですから。全身をバラバラにされても、手当なんか必要ないでしょう」
何を気持ちの悪いこと……おい、なんだあれ? 涼しい顔して立ち上がりやがったぞ。菖蒲とかいう女……。傷口が一瞬で治りやがった。何が起こった?
「おい、ふざけるなよ。眼鏡!! この場所を割り出したのも私だろうが!! 誰がしぶといだけが取り柄だ、この野郎!!」
そうか、あいつの式神はおそらく土属性。衝撃吸収と柔軟性、復活能力に長けていている。傷の手当ても鎧の復活もそのためか。この場所を割り出した理由も察しがつく。奴は幻覚が張り巡らされたこの空間を、地面を傳う事で回避したんだ。廊下の床は幻覚に左右されずに、俺達の足踏みする音を振動としてキャッチできる。幻覚とは究極的に言えばただの『目くらまし』。相手を見なければ、その罠には掛からない。
「相手に幻覚使いがいるって聞いていてね。あたしの出番だと思ったんだよ。私は今、妖怪『泥田坊』と契約している。そのまま鬼神装甲して力を100%共有している。振動が強い地面を辿れば簡単にお前たちの場所を割り当てられんだよ」