戦車
「ぐぇっ」
バイクは金縛りにあったかのようにピタッと動かなくなった。いくらアクセルを踏んでも効果が無い。行き成り走行手段を封じられた。ちくしょう、あと三十分は逃げ回る予定だったのに。
あっさりと一反木綿に捕獲された俺は、火車から引き離され、上空へと浚われる。その数は三体、妖怪相手に人間の力でどうこう出来る数じゃない。霊力でブッ飛ばす方法もあるが、まだ十分に火車から妖力を受け取っておらず、元々俺自身の体にはそんなに妖力は無い。
「ちくしょう!! 鬼神スキル鋸貝!!」
「無駄です。縛り付ける私の妖力の方が大きいから」
徐々に痛みが増していく、まるでこのまま潰されそうな感覚だ。でもほぼ瞬間移動である鋸貝が無効になるなんて、やはり元々の妖力の実力が離れ過ぎている。何か奇策を考えない限り負ける。まずはこの締め付け地獄から脱出しなくては。もう一つの鬼神スキルも鋸貝が弾かれたので、使っても意味は無い。仕方ない、あれを実践でやってみるか。
飛鳥は風と金の妖力を持つ陰陽師である。そこで風の妖怪である一反木綿とは非常に相性が宜しい。それに比べて俺は火の属性を持っていながら二十パーセントの力だ、火車の全ての力を発揮させることは無理だろう。しかし、戦闘において全ての属性を持つというのは、全く無意味ではない。
「火車、奥の手だ。モード戦車!! キャノンモードだ」
俺の発言に、よつばは目を丸くし、飛鳥も驚いた顔をした。先生は溜息をして下を向き、地元の妖怪達は歓声を挙げる。この奥義は修行中に一回も成功してはいない。だが俺が捕まってしまった以上、無理を通すしかない。
「何を馬鹿なっ、大きさを変えるだけの妖力が貴方のどこに!!」
「誰が一体の火車だけで戦車になるって言った」
慌てて飛鳥が辺りを見渡す。地面には無数のお札が落ちていた。そう、俺は自分が捕まった時のことを計算して、逃げ回りながらお札をばら撒いていたのだ。余裕の表情をして時間を与え、俺を追跡することだけに集中していた飛鳥は、俺をロックオンしすぎた為に、地面に散らばったお札に気付かなかったのだ。飛鳥が空中から攻撃することが分かっていたからこそ、成功した作戦である。本来はもう少し逃げ続け、時間を稼いでから発動する予定だったのだが。
「さあ、反撃の時間だぜ。合体だ!!」
数十体の火車達が光に飲まれていく。そして、遅れて中に入っていく奴も、光は飲み込んでいく。
「朱、橙、赤、黄、桃、白。奴らの合体を阻止しなさい」
上空から襲い掛かる一反木綿の群れ。だがこの飛鳥の判断が、思いもよらない展開になった。俺が修行中に戦車モードを作るのに失敗した理由は、単純に俺の妖力が足らなかったからだ。まず合体しない他の火車から妖力を供給し、その後俺が合体中に必要な妖力を手渡すという流れなのだが、いくら合体に参加しない火車から妖力を貰っても、俺自身のスペックが足らずに垂れ流してしまい、完成出来なかった。だから実践では、本来企画していた戦車のミニバージョンで間に合わせる予定だった。
しかし、なんと俺も予想もしなかったが、合成進化の過程でなんと光が一反木綿から飛鳥の妖力を奪ったのである。そのまま六体の一反木綿は力なくへなへなと地面に墜落した。