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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十二話
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諸説

牛鬼という妖怪は、松林のガシャドクロ並に悪名高い妖怪だ。山間部や川にも出る特に淵に出る事が多い。性格は非常に残忍で獰猛、毒を吐き、人を食い殺す。主に海岸に現れ、浜辺を歩く人間を襲う。牛鬼の一番の特徴は特に知られている範囲が広い。出現範囲は西日本全域に渡り、近畿地伝承や四国には伝承が伺える地名が多く存在する。


 愛媛県にはこの牛鬼を神聖視しており、数々の牛鬼退治の逸話が残っている。それ以外にも地方の島などでも祝いの祭りが開かれる場合もあり、頭を地に伏せて祭る程だ。諸説は多々あるが、危険でありながらも、人間との親交が高いのは、陰陽師の裏に実態があったからだ、と機関で習った。


 あれ? 誰に教わったっけ?


 「マズイですね。あいつは妖怪の中でもかなりの荒くれ者です。会うのは初めてではありませんが、やっぱりかなり威圧感がありますね。我々に躊躇してくれないのは確かですね」


 そうだった、牛鬼は人を殺す事を躊躇わない。よくセットで話題に上がるのは、磯女という妖怪である。腕にいる子供を抱いて欲しいと言って人を呼び止め、相手が赤ん坊を抱くと石のように重くなり身動きが取れなくなる。そこを海中から出てきた牛鬼に食われるのだ。コンビで人を襲う妖怪の諸説としては、一番にメジャーなんじゃないかな。


 「我々は迅速にキサマらを排除するように松林様から指示されている。取り巻きのキサマらも柵野栄助に加担するというならば、反逆者も同じだ。ここで全員まとめて消し去る」


 牛鬼の目が不気味に光った、犬歯からヨダレが垂れ、蜘蛛の足が気持ち悪く小刻みに動いている。こんなに愛嬌がないと唯のモンスターだ。それと…………、もしかして……。


 「おい!! そこの真ん中の女!! たぶんお前が牛鬼と契約している陰陽師だな。妖力の波動が同じだぜ。それと、そこの右にいる女!! これは……鬼神装甲……」


 一度、戦ったから分かる。これは松林が使っていた妖怪と一体化する技術だ。鶴見も同じ技術を持っているのだが、なんというか意味合いが違う。これは……まるで……負の波長というか、なんか普通の陰陽師としての妖力の重なり合いじゃない。一般の奴隷関係ではなく、俺達のような仲間意識でもない。こいつらと妖怪の中での関係は……何かが違う。


 「だからどうした、悪霊め。人数がそちらが上でも我々はお前の首さえ跳ねれば勝利なのだ。5対3でも容量良く戦えば勝算はある。逆にキサマらは必死にそこの害悪を守るのだろう。そんな隙だらけで、松林様から受け取った力のある、我々の相手が務まると思うな」


 やはり鬼神装甲の技術は松林から習ったのか。たぶん鶴見みたいに時間を掛けた信頼関係を結ぶ形ではなく、人間を虐げる意味での利害の一致によって。俺が牛鬼についての情報を聞いたのは、丁度その時に俺の教育係だった松林だったという事を思いだした。


 奴は悪名高い人を平気で殺す妖怪を中心に式神にして、手駒に配った。そしておそらくこう言ったのだ、『人間を憎め』とな。その歪んだ差別意識が新たな共同関係を画一された。いわば利害の一致、この短時間で高性能のコンビになるには打って付けの技術だ。悪意は伝染する、これが陰陽師と妖怪を繋ぐ架け橋になってしまった。


 「おい、お前ら!! 目を覚ませよ。松林がやろうとしている事がわからないのか。奴は平和な世界とか、平等な暮らしとか望んでいない。自分の独裁国家を作ろうとしているだけだ!!」


 奴は自分に必要な物を残し、不必要な物を排除するつもりだ。奴の掲げるテーマは等しくそれしかない。おそらく……一般の方々も漏れなく巻き込む気だ。陰陽師や妖怪に関係ない連中も皆まとめて『取捨選択』をする気なんだ。俺がここで本当に死んだら……本当に……世界は。今までにない『差別』で塗り固めた世界になる。奴は今までの陰陽師の汚点をさらに広げようとしているだけなのだ!!


 「それの何が悪い。悪霊に暴れられて世界が崩壊するよりマシだ。それに我々は選ばれた存在だ。今更、下々の人間の戯言に耳を傾ける気はない」

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