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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十一話
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近道

理事長は俺たちの味方だろう、確かにこの笠松町まではついて来てはくれなかったが、松林に俺達の居場所を教えるような真似をする人じゃない。何かの間違いだろう、そんな事をしたら自分の溺愛している奥さんと娘を危険に晒す羽目になるのだぞ。


 「彼はね、実は行弓君を殺す事を望んでいるんだよ。勿論、君が嫌いという話じゃない。ただ君を殺す事で柵野栄助を殺す事ができる。一番安全な方法で世界を救えると考えているんだ。私が行弓君を逃がすと言った時に彼に死ぬほど止めとけって言われたよ。夫としてね」


 確かに俺が死んでしまう事が世界を救う一番の近道だという見解は否定しない。柵野栄助の危険性やこれからの奴との闘いで犠牲者が出ないなんて思っていない。しかし、俺だって一つの生命だ。そう簡単に生きる権限を奪われてたまるか。


 「私の夫はね、君はもう綾文功刀との戦いで既に死亡したと考えているんだよ。もう君を成仏しない幽霊程度にしか考えてないんだ。残響を追ってないで現実を見ろってね。私は現実から目を背けているのは彼の方だと思うけど」


 確かに俺はもう人間ではない、悪霊だ。これは否定できない、よく漫画とかで『心が人間なら人間』とか、そんないかにも都合のいい台詞が使い回されるが、俺はどうもそうは思えない。嘘で誤魔化したって仕方ないだろう、俺はもう人間じゃないのだ。だが、俺は人間に戻れる可能性がある。確固たる自信は無いが、奴が俺を意識だけの世界に閉じ込めた以上は、俺だってそんな真似をできるんじゃないか。


 「もう私の夫は形振なりふり構ってないんだ。例え在らぬ事を考えている松林に加勢してでも、行弓君を殺してしまわなければならないと考えている。逆に言うと、私では柵野栄助を倒せないと考えている」


 だからそこが分からない、どうして柵野栄助をそこまで危険視する。絶対防御や絶対回避なんて持っていない分、むしろ倒しやすいだろう。どうして封印なんかした、どうして奴をそこまで警戒する、どうして俺をそこまで必死になって殺そうとする。


 「まあそれでも……私は行弓君は死んで仕舞えばいいとは思えない。これから世界に必要なのは柵野栄助でも、松林力也でも、振払追継でもない。松林なんかに世界を預けちゃいけないんだ」


 …………会話が途切れた。鈍い炸裂音と共に激しい爆音が鳴る。早過ぎる、どうしてこの場所が暴かれた? だって松林と柵野栄助とがぶつかり合っている間に、ほとぼりが冷めるまで隠れている予定じゃないか。どうして……攻撃が始まっているのか?


 「これって……」


 鶴見の震え声と共に全員の目つきが変わる。御札を一斉に取り出し、警戒態勢に入った。何だ、この不安感は。世界がまるで裏切ったような、大切にしていた物が消えかかるような気分は。俺はこの感覚を一度、味わった事がある。綾文功刀と戦った時での圧倒的な絶望感。あれと同じだ。


 「ダモンは……私の部下なんかじゃなかったんだ。彼もまた、私たちを裏切っていた。さっきの連絡電話で奴は受話器越しに松林に入れ替わったんだ。そして奴は私に言った、『全て見破っている』と。私は……また信じていた仲間に裏切られた」


 …………ダモンはスパイとしての役割を果たして無かった? それじゃ俺達の動向は全てに渡ってバレていた。じゃあ………この場所が以上に早くバレたのは、理事長の暴露じゃなかったのか。いや、リーダーは理事長は俺がそんな不利になるような事を言うだろうか。つまりこの場所の特定はダモン……、じゃあ理事長は。


 「あーあ、だから結婚なんかするんじゃないんだよ」


 窓ガラス越しに外を覗き込んだ、そしたらそこにいたのは。俺と相良十次との闘いで静かに歓声していたバンダナの正座軍団と……理事長。じゃあここまでやっていた襲撃者は……理事長か。

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