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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十一話
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適切

 確かに戦場において食事は大切だと思う、腹が減ってはいくさは出来ないなんていうが、実際にその通りだとは思う。だが、皆で鍋を囲むというのはどうかな。隙を見せるというか、意識が遠のくというか、とにかく今の状態には適さないと思う。もうちょっと手軽に食べられる代物が適切だと思うが。


 「そう嫌な顔をしないでくれ。これは君のための処置なのだから」


 「どういう意味ですか? 五百機さん」


 俺のためって、よく分からないな。俺は別に鍋が好物とかそんな訳じゃないのだが。むしろいくら夕方の時間帯だとしても、この夏場に鍋なんて気温が上がりそうな料理は嫌なのだが。


 「簡単に言えば柵野栄助への対策だよ。柵野栄助は君の妖力を媒体に生息している。体を奪っている状況だから直接的な心の中には入れないのだが、生命が共通してるように、憎悪や不信感は君から吸収している可能性がある。君にはある程度は楽しい気分になって貰わないと困るんだ」


 そういう理由か、下手に卑屈になるような動きをしても、柵野栄助を強化する真似になるのか。例え場違いだとしても、こういう環境にいなくてはならないのか。


 しかし、この体は本当によく理解できない。柵野栄助は俺と生命以外にどれほどリンクしているのだろうか。今の奴がどこにいるのかもよく分からないが、あの山で何をしているのだ。たぶんそれは柵野栄助、本人しか分からないだろう。詮索しようにもヒントが足らない。


 「松林は君を殺そうとしているが、奴は何も事の重要性を分かっていない。行弓君に不安感を煽らせる事は、世界の崩壊をも意味する。リーダーが真っ先に助けに来たのはそれが理由さ。我々は君を守る事はおろか、不安感を抱かせる事も駄目なんだよ」


 俺は百鬼夜行のアジトに戻る時に、かなり精神が病んでいた。今はだいぶ、落ち着きを取り戻してきたが、それでも気分が良いもんじゃない。今だって絶望で頭がおかしくなりそうだ。この心の中の不信感が既に柵野栄助へのパワーに繋がっているのだとしたら、ここまでの皮肉な話はない。


 「まあそんな難しい話は後にして、食事にしようよ。もう私、お腹空いて死にそうなんだ。もうそろそろかな。ほら、座りなさい」


 いつの間にか、皆でワイワイ話していた。部長は相変わらず追継に掛かりっきりだ、流石に耐性のある奴でも辛くなってきたのだろうか、そこそこ嫌そうな顔をしている。それを母親であるリーダーが微笑ましそうに見つめている、助けてやれよ母親だろう。


 「チャッピーさん、お味はいかかですか?」


 「うん、予想外に美味しい。夏に鍋も悪くないなって、誰がチャッピーだ!!」


 飛鳥は希薄な目をしてうっすらした顔をしているくせに、時々不意打ちでギャグというか、俺の神経を逆撫でするような言葉を言ってくる。


 「へぇ、チャッピーかぁ。行弓君って呼ぶのもなんか違和感あったし、それでいいかも」


 良いはずがないだろう、何を血迷った事を。この体の元の持ち主である面来染部の彼女であった女子高校生に失礼だとは思わないのか、思わないよな。せめて面来染部に名前くらい聞いておくべきだった。


 なんか拍子抜けするくらい平和な日常だった、今までの俺の緊張が馬鹿みたいに思えるくらいには。これから松林とか柵野栄助とかと戦わなくてはならないというのに、心が何か底知れない安心感を持てるようになった。俺は……、力が入り過ぎていたかもしれない。また使命感に押し潰されそうになっていた。


 今回は俺、一人で戦うじゃない。皆で戦うんだ。

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