絶賛
謹慎……まさかそんな事態に……。それで俺の尻拭いをしてくれていたのか。なんか自分がまた情けなく感じる。気がつかない場所で俺は誰かに支えられていたんだな。
「すまん。俺が勝手にいなくなったばっかりに」
「いえ、あなたに謝罪される筋合いは無いですよ。それよりも百鬼夜行がこの町に何の用事ですか? もしかして烏天狗の住んでいた山に存在する悪霊の事についてですか?」
気がついている……さすがに笠松陰陽師機関も奴がこの町にいる事に気がついていたか。まああれだけ強大なパワーを秘めた奴がいるなら、嫌でもわかるか。まさか交戦なんてしていないだろうな、あの体は俺の姿をしている。俺が悪霊になったと勘違いされるのではないか。
それにしても、柵野栄助は動いていないのか。俺は奴がこの町に残っているという可能性すら危ういと思っていたのだが。現に面来染部も久留間点滅も山から抜け出していた。奴が直接に俺を狙わない理由が分からない。もう手駒はなくなったはずだ。奴なら俺がどこにいるかなんて、把握してそうな感じがするのだが。
「なんか嫌な感じがするんだよなぁ、ってまずは飛鳥にこの状況を説明しないと……。でも話すと長くなるよなぁ。色々あったからなぁ」
「行弓君、駄目なんじゃないかな。状況を説明しなきゃ。相手が相手だから誤魔化しとかは効かないとは思うけど。言っちゃ駄目だよ。百鬼夜行の事は」
鶴見の助言通りだ、せめてリーダーの許可くらい貰うのが筋である。謹慎中とはいえ、飛鳥は俺と違って正式に機関に在籍している。機関に問題を報告してもおかしくないのだ。でも交戦して倒せる相手じゃない、そもそも奴に出会った時点で俺達の作戦は崩壊したのだ。
リーダーと合流だ、この不足の事態に対し新たな対策を打たなければならない。俺が今すべき事はそれなのだろう。
「よし、今から俺が全力でリーダーのいる職員室に走る。鶴見は飛鳥と話し合っていてくれ…………、分かったよ。俺が残るよ、そう睨むなよ。じゃあお前が職員室に向かってくれ」
さて俺は随分と馬鹿な事を言ったな、職員室にリーダーがいるとか、絶対に言っちゃ駄目だろう。まあこの部室には絶賛ラフスケッチ中の久世謳歌さんがいるから、一反木綿で締め上げるなんて真似はしてこないだろう、謹慎中でもあるしな。
妖力を使わない物理的な戦いなら俺に………無いな。俺も女の体だった。腕力とか馬力とか、大差はないだろう。まあ強行手段に出れば、こっちは振払追継がいるからある程度は対抗できるか。鶴見はダッシュで後ろを振り向くとドアを開けて走り去って行った。
「それで? 行弓君はどこにいるんですか。あの男装が趣味の親玉と一緒にいるんですか? それであなたが私を足止めですか。そもそも一般人の部外者の前で妖力は使えないという腹ですか」
駄目だ、全部読まれている。やっぱり飛鳥は俺と違って感が鋭いな。
「いいでしょう、私に何をしようと構いません。いくら私でも強度が未知数の相手に適う自信はありませんし。ですが、あなた方は思っているほど、私の陰陽師機関への忠誠心は無いと思いますよ」
…………なんで? 日野内飛鳥は最高ランクに陰陽師機関に忠誠を従っていたはずだ。優れた才能に相乗効果で、奴には俺と違って聞き分けの良さがあった。上司に口答えなどしないし、命令に逆らった事などなかった。
「全ての陰陽師機関が、絶滅の危機に貧しています。本部の最高責任者であった阿部清隆が死してしまったのです。それで笠松の機関も内部崩壊を起こしました。人間とは醜い生き物ですから、もう世界は混乱の嵐です。これを好機と機関を独立して我が物としようとする輩、松林なる新しい王を認める輩、何も行動を起こさず引き篭ってしまう輩。全ての陰陽師機関で歪が新たな歪を産み、収集がつかなくなっているんです」