険悪
狭い部屋に五人の人間が集まった、先ほどの険悪とした雰囲気はたった一人の仲裁者の存在で、完膚なきまでに大破した。この場に鉢合わせてはいけない二人が顔を合わせてしまったのだから。
「君は……まさか……、その狐耳のフード……、これだぁぁぁぁぁぁ」
そう俺はあまり関わっていないので、詳しい事情は知らないのだが、部長は追継が俺に成りすましこの町に侵入した時に、彼女を少し見てしまっていた。そこで部長のゲーム制作魂に新しい風を与えてしまい、新たなゲームの主人公のモデルとなってしまったのだ。だが、追継を見たのは一瞬だけで、スグに眠らされてしまった。だから部長は振払追継に会いたかったのだ。
さて、これで面倒な事態になった。俺たちの事情を知らない飛鳥の目の前で部長の記憶消去を行うのは難しい。飛鳥に対し陰陽師として行動するという意思表示になり、最悪は戦闘になる。特に俺の姿が変わり果てているので、俺たちを攻撃する事を彼女は躊躇わない。下手をすればこの学校を避難所として使えない可能性も出てくる。瞬間的に全員がリーダー達がここの様子を伺いに来るまで待機だと思っただろう。
「そうですか、お兄さんが言っていた人物は、この人でしたか。では飛鳥さんは予想外だったようですね」
理解してくれたのは助かったが、声に出さないで欲しい。飛鳥はあんなにぼーっとした目をしているが、途轍もなく感が鋭い。俺達が部長の記憶を消そうとしている事が悟られてしまう。
「ふふふ、こんなに私のイメージに合う人材が姿を現そうとは。済まないがそこの幼女よ、是非私のゲームのモデルになっては貰えないか。勿論、報酬は弾むぞ。お金のやり取りは汚いから、君の夏休みの宿題でも手伝おうか」
「いえ、夏休みが始まって初日で全て終わらせたので。特に困ってませんよ。別に見返りとか必要ないですから。どうぞ、好きなだけスケッチして下さい」
部長が常識のない人で助かった、普通は学校に中に私服を着た部外者がいれば、騒ぐなり、さらっと職員室に報告に行くなりするだろう。それを深く考えずにゲーム制作に没頭するなんて。俺と鶴見は置いてけぼりかよ。
振払追継は恐らく抵抗せずに、時間を稼ぐ事を選んだのだろう。ここで騒がれたらマズイからな、麗しい自己犠牲をしたのだ。まさか部長の餌食になろうとは。でも男装趣味の母親と、異常なまでに溺愛している父親の影響で、恥ずかしい思いをする事に慣れてしまっているのかもしれない。
「飛鳥さん、お久しぶりです。ご無沙汰してます。私の事を覚えてますか?」
「えぇ、忘れもしない、鶴見牡丹。この町を爆破して大量殺人をしようとした女ですよね。あなたから受けた火傷は痛かったですよ。おかげで私の所属の機関もだいぶ混乱しました。ようやく落ち着いたと思ったら、帰ってくるなんて。どの面下げてこの町に帰ってきたのですか?」
厳しい……そうだった、この二人は仲が悪かったんだった。想像以上に鶴見の事を邪険している。俺以上に鶴見と直接的に戦ったお前なら鶴見のヒステリックな性格はお前も知っているだろう。気持ちは俺も分かるが、傷口に塩を塗る真似は控えろよって今のこの姿の俺が言っても説得力がないだろう。