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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十一話
384/462

来客

 ★

 俺がオカルト研究部に入部した理由は特にない、運動部に入る気力もなく、他の文化系の部活にも興味が沸かなかったので、趣味であるゲームを堪能するために帰宅部でいいかなっと軽く考えていた。


 部長との出会いは、妖怪達からの依頼からだった。一年前から、我々について嗅ぎまわっている奴がいる、気になるから奴が何者か調べてきて。そう言われたのだ。部活動の体験希望と称して俺はオカルト研究部なる不明な集団が巣食う部室へ足を踏み入れたのだが……、そこにいたのは只管ひたすらにパソコンを弾く、ヘッドフォンを頭に付けた女性だった。


 あとは成り行きである、アシストが欲しかった、私に毎日お茶を注いでくれ、アイディアが思い付かないから協力しろ、明日も来るよな、そんな言葉を投げられ続け、とうとう俺はこの部活に入ってしまっていた。


 「ここが、オカルト研究部ですか。何でこんな夏休みまで活動をしているか、わかりませんが。お兄さんの言う通り、どうやらこの教室内にいるようですね」


 俺たち三人はオカルト研究部の部室前に来た。上お窓を見上げると明かりが付いている。現在、夕方の七時で夏だからまだ明るいとはいえ、電気が付いているかどうかは一目瞭然だ。


 「恐らく相手は一人だ、スグに終わらせてくれよ」


 「えぇ、行弓君は下がっていてね。私と追継ちゃんで突入しますから」


 万が一に部長が、下手に悲鳴をあげられたりしたら面倒だ、あの人の正確上そんな真似はしないと思うけど。余計なリスクは必要ない、話し合いも無用だ。早期決着が一番無難だろう。


 「では入ります」


 追継がゆっくりと部室のドアノブを回して、ドアを押した。光がこっちに差し込んでくる。そこにいたのは……部長じゃなかった。黒いおかっぱに整った顔、感情を表さない白くて希薄な目。今回はお馴染みの巫女服ではなく、この学校の夏服だな。


 「……百鬼夜行がこの町に侵入したという報告は受けていますが、こんな場所に突入してくるとは。驚きました、目的はもしかして私ですか」


 あいつは……日野内飛鳥ひのうちあすかじゃないか!! どうしてオカルト研究部の部員でもない奴がこの部室にいるんだ。飛鳥はパソコンの前に座り込み、白けた希薄な目で呆気に取られている俺たち三人を眺めている。


 無理だ、記憶消去など。相手が悪すぎる。俺は全く三人掛りでも奴を捉える事は不可能だろう。後ろの窓から逃げられる。このまま放置したら飛鳥が機関に俺たちの潜伏先を報告してしまう。


 「どうしてお前がこんな部屋に」


 「それはこっちの台詞ですよ。初対面の人間に対して『お前』ですか。随分と馴れ馴れしいですね、部外者はあなた達でしょう。陰陽師機関の中で全国指名手配中の百鬼夜行さん」


 確かに日野内飛鳥はこの学校に在学している生徒だから、この部屋にいるのに不自然なのは俺たちのほうだが。それよりも彼女も俺の事を橇引行弓だと分かっていないんだな。当然か、意識以外は以前と共通する点が一つも無いのだから。


 「お兄さん、マズイ事態になりました。倒せる事は可能性は低いかもしれませんが、出来るかもしれません。しかし捉える事はまず不可能な相手です。どうして彼女がいるなら、お母さんか五百機さんに付いて来るように言わなかったのですか」


 違う、まさか飛鳥がこの部屋にいるなんて思わなかったんだ。俺が想像していたのは、別の人物だ。夏休みだから学校に奴はいないと考えていたんだよ。


 「…………どうやら私に合うのは想定外だったという顔ですね。何が目的でこんな場所に顔を出したのか知りませんが」


 嬉しそうな顔一つせずに、希薄な目でこっちを眺めている飛鳥。どうやらすぐに交戦する意識は無いらしい。これでも冷静な奴だからな。だが、果たしてこの学校に来た理由や、これまでの戦いや戦況報告を話しても良い相手だろうか。敵に情報を送るという意味もあるが、何より下手をしたら飛鳥をこの柵野栄助や松林力也との戦いに巻き込む結果を産む。


 そんな危うい膠着状態に入って、誰も声を発さずに固まってしまった時だった。まるでこの雰囲気を叩き壊すかのように、俺が本来会おうとしていた人物が、俺たちの後ろの廊下から姿を現した。


 「どうした、飛鳥君? 来客の人?」


 そこには俺が最後に確認した時と全く変わらない、ヘッドフォンに赤い髪の女性だった。……笠松高校オカルト研究部部長、久世謳歌先輩だ。

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