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特に何もしない陰陽師  作者: 太刀風居合
第二十一話
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余熱

 俺は笠松高校での思い出は深いようで、深くない。だって俺が笠松高校に入学して三ヶ月くらいしか生活していないのだ。まだ何も面白いイベントとか経験してないし、高校生として生活に馴染んだ覚えもない。


 「夏休みだから誰もいないだろう、だから隠れ放題だね。教師に遭遇したら記憶消去で問題ない。校舎を派手に壊したら近隣の方に迷惑がかかるから、攻撃も来ない。5人いるから食事を買ってくる当番も問題ないだろう、代わり番で行弓君を護衛できるし。シャワーもあるし、応接室にソファーもある。何も困らない完璧な隠れ家なのだ」


 あぁ、確かに俺もこれと言った問題は思いつかない。ここ以上に適当な場所はないだろう。部活動をしている生徒がいる事を計算に入れていない事を除けばな。一般の普通高校である笠松高校は、そんなに部活動に力を加えていない。特に文化系の部活は、あって、無いような物である。オカルト研究部だって俺と部長の二人しかいなかったのだから。


 だが、オカルト研究部は部長のあまりの『積極性』により、朝練があり、夏休みもスケジュールで詰まっていた。これはあくまで予定だったが、聞かされていた話では、図書館からホラー内容の話を漁ったり、実際のホラースポットに出向いたりするつもりだったらしい。俺が部長に何も言わずに出て行った事を部長は怒っているだろうな。


 集めたデータはゲーム制作に利用するつもりだったらしい。彼女はオカルトに興味はあるのだろうが、心のどこかでそんな存在は無いと思っているかもしれない。まあ俺の姿は完璧に変わってしまっているので、遭遇しても問題は無いとは思うのだが。


 「それでは応接室に行こうか。ここで戦いの余熱ほとぼりが冷めるまで隠れているよ。さて、せいぜい戦力を減らし合ってくれ」


 果たしてそう上手くいくだろうか、俺はそんなに丁度良く作戦通りに行くとは思えない、成功のイメージが掴めないのだが。


 「お兄さん、取り敢えず荷物を運び終えたら、どこか行きたい場所とかありませんか?」


 行きたい場所って、俺はあまり自由を許されていない。俺がどっちかの組織に捕まってしまえば作戦が終わりだからだ。俺は外に行くことは絶対に許されなく、学校でも二人以上の護衛が無くては行動すらできない。


 リーダーと五百期さんは学校を制圧する為に、職員室に向かう予定だ。つまり俺がこの学校の中を移動する時は、鶴見と追継を連れて行くしかいない。リーダー達の目的は学校に残っている教師を捉えて記憶を消去し、帰宅時間まで眠らせる事だ。一般人に迷惑をかけている以上は完全に陰陽師の規則違反だが、こっちだって日本の未来を背負って戦っているのだ、ここは譲れない。


 「まあ団体行動しろとは命令されましたが、ずっと応接室にいろとは命令されてません。お兄さんが元にいた学校でしょう。久しぶりに行きたい場所とかありませんか?」


 そうだな、俺がこの学校で自分の居場所だと思えるのは、自分が勉強していた教室と…………オカルト研究部の部室か。彼女は恐らくそこにいる、俺達が向かえば必ず鉢合うだろう。


 「この学校にいる人間は全員、記憶を消去しなきゃいけないんだよな。恐らくこの校舎の中にいるであろう人物を知っている。その人は陰陽師に全く関わりの無い人だ。面倒な事になる前に今の段階で処理するべきだと思う」


 久世謳歌ぐぜおうか先輩。記憶消去は素直に悪い事だと思うし、部長にはこの他にも色々と俺の事情に巻き込んでいるのだが、ここは俺の我が儘に付き合って貰おう。


 「そんな人が。まぁ、お母さん達だけに記憶消去を担当させるのもどうかと思いますし。我々も協力しましょうか、消す相手が少人数なら何の問題も無いでしょう。鶴見さんと私はこの学校をよく把握してません。お兄さんに案内をお願いしてもいいですか?」


 俺は首を縦に振った、振り向くと鶴見もやる気十分という顔を見せる。こいつも付いて来ないと移動できないからな。さて、この学校内でのファーストミッションである。

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