疾患
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面来染部のいう彼女に、俺に思い当たる事が一つある。柵野栄助が俺の前に憑依していたとされる今はいない女子高生。最後は理事長や相良十次を含む陰陽師団体が柵野英介を追い込むために、利用されて殺さた。それがこの体なのだろうか。
じゃあ面来染部はその女子高校生を好きだったという事なのか。奴は生前に何だったんだ? 元の霊体ではなく、霊体が通常的に憑依して、精神疾患となり負の感情を吸い取られた挙句に、自殺した事で覚醒したレベル3の悪霊だと思う。
「橇引行弓さん、待っていて下さい。必ずあなたを救いだしてみせます」
違う、俺は皆と一緒にいたい。例え危険が伴っても俺が出来る精一杯の事がしたい。という、俺の願望を伝える前に奴が行動を起こした。と、言っても懐から武器を取り出したり、爪を伸ばしたり髪が伸びたりなどの身体的な変化もなく、ただ俺のいる方向に向かって、全力疾走してきただけである。
この瞬間に俺を除く百鬼夜行のメンバーが阿吽の呼吸で対処に望む。予想外ではあったものの、ここで立ち位置が危険因子である面来染部を始末できるなら是でもない。これからの作戦を首尾良く決行するためにも、ここでこいつを消す。
「そう簡単に誘拐させると思うか。百鬼夜行を舐めるなよ」
まずは一番に面来染部の近くにいた五百機さんが動いた。御札から霧状の妖怪である大蛤を出すと、辺り一面を霧で覆い隠した。これでいい、まずは奴の視界を制限する。単純な物理攻撃だけが足止めじゃない。しかも幻覚作用があるのは面来染部のみである、残りのメンバーは迷って動けない奴を容赦なく狙い撃ちできる。
「提灯お化け、筒の中に奴を捉えて!!」
「鶴見さん、加勢しますよ」
鶴見の提灯お化けが奴に向かい突進した、と同時に、いつの間にか御札から取り出していた振払追継の化け狐から発する火炎が提灯お化けの蓄積していた炎を逆巻かせる。奴が絶対回避能力者ならばそう何回も攻撃がヒットする確率は極めて低い。だから捕獲する作戦に出たのか。
「連携攻撃ですか、カッコイイですね、無意味な点を除けば。ではそろそろ回避能力者の伝統的な決め台詞を言いましょうか」
駄目だ、躱された。何というか、バク転とか宙返りとかそんな一般的に見られるダイナミックな動きをした訳ではない。ただの脚を動かす速度が少し変わって、向きを変えずに少し左に移動しただけだ、それだけで提灯お化けの突進をあっさり避けた。それと真っ直ぐに俺の方を向いて走っている事から幻覚も躱しているのではないだろうか。
これなのだ、こいつの能力である絶対回避信号には無駄がない。何というか、一般的な回避ではなく、神様に愛されているからとか、全ての運が味方しているからとか、攻撃した側はそんな風景にしか感じとれないのだ。
「当たらなければ、どうという事はない」