銀河
面目が立たない以前に、前の橇引行弓の容姿は存在せず、あるのはこの紛い物の姿だけだ。これでは本当にどうしようもない。
「じゃあ笠松町での三人の動きを言っておくよ。まずはじめに言っておくけど、ここにいる全員が離れる気はない。今回は珍しく団体行動だ。向かうのは機関に事情を私が説明して居座る許可を得る。いざとなれば人質でも、なんでも取って無理矢理にでもどうにかするよ。強行手段は得意なんだ」
なんか笠松の町に隠れ家でも用意しているのかと期待した俺が間違っていた、もう始めっから現地の陰陽師と戦う気満々じゃないですか。
「まあ変わり果てた行弓を説得材料して……」
俺達の事情を説明するんだよな、レベル3の悪霊との交戦や松林の阿呆の始末とか、そんな事を説明する過程なんだよな。俺を何に利用する気なんですかね、ちょっと想像しても答えが分からないんですけど。
「行弓君が女の子になっちゃったよ。助けてぇー。みたいな」
それを信じてくれる人は銀河系に一人もいないと思うんだ、まあまず何を説明しても理解に辿り着かないと思う。これはお手上げだから悪役のイメージ通りに、強行突破しかないと思う。でも人質とか誰かに迷惑を掛けて、不幸な思いをするのは宜しくないと思うのだ。
「ここはやっぱり柵野栄助を直接倒すしかないと思うんです。松林は柵野栄助を殺してから、またポイントを移動して、順を追って解決するんです。漁夫の利を狙って時間の経過を待つとか無謀ですよ。疲労したどちらかにトドメを指す前に、機関の陰陽師とのいがみ合いで作戦が上手くいきません。五人じゃ、人数的に難しいです」
だが、リーダーはそれを良しとはしなかった。
「柵野栄助は強い、他の悪霊とは次元が違う。今まで僕は星の数ほど悪霊を葬ってきたが、奴は封印に頼って最後に回さなければと考えた程だ。というか、奴がレベル3の悪霊の発端なんだけどね。だからこそ、余計な犠牲は出したくない、奴とは私だけで戦う」
烏天狗との戦いを見ていた限り、奴がそんなに戦士として有能だとは感じなかった。圧倒的に優位だったにも関わらず、物理的ダメージを負った。それだけではない、奴は烏天狗が木の葉の中に隠れているという事実に気が付くまでに、かなり時間を弄した。頭がきれる奴だとも感じない。戦闘を終始圧倒していたようにも思えない。最後は烏天狗と俺に言い負かされたのだから。
本来の憑依能力に頼らずとも独自の憑依方法を持っているのは凄いと思うが。裏を返せば、奴はそれ以上に何も持っていないのだ。下手すれば今まで対峙してきた、綾文功刀や久留間点滅の方がよっぽど凶悪に感じるのだが。
「第三世代始まりの悪霊って、それだけでそんなに別格になるんですか?」
鶴見も同じ疑問を持っていたようだ、俺も奴の強さはイマイチ理解できない。皆が警戒しすぎているだけに感じる。奴はもう俺と言う媒体を作り出してしまったのだから、能力による不死身の設定は消えたのだ。通常の殺し方でも通用する身体になっているはずだから、リーダーならさほどの苦労なく倒せるはずである。