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両刃

 結局のところ、俺にとっては不本意なのだが、笠松町に避難する事になった。俺の今の微かな希望は、柵野栄助から俺の体と妖力と式神を奪い返すこと。こんな体じゃ真面に表を歩けないのだから。


 始めはショックで何も考えられないくらい頭が真っ白になったが、ようやく落ち着きを取り戻せた。別に何か状況が好転した訳でもない、何か俺に有意な事実を思いついたのでもない。だが、人間はどんな感情でも冷める生き物だ、頭が冴えてきて俺は現状を冷静に分析しつつあった。


 松林の裏切りは始めはあり得ないと感じたが、今を思えば寧ろラッキーなくらいだったかもしれない。リーダーの言う通りに奴らが勝手に潰し合えば俺達は簡単に目的を達成できるのだから。


 で? 今どこにいるかというと、仲間たちとトラックの中で山道をドライブである。どこからそんな車を用意したとか、もう気にかけない事にする。俺達はもう荷仕度を済ませ、アジトにこれでもかという程に危険な罠を張り、笠松町に向けて移動中である。運転は五百機さんがやっていて、助手席にリーダーがいる。俺は残りの全員のメンバーと後ろの荷台の中でゆらゆら揺れながら、静かにしている。


 「私、緊張してきたよ~」


 鶴見の不意の言葉に俺と追継が反応した。別に場の雰囲気が悪かった訳ではなかったのだが。ここにいる全員がこれからの闘いに恐怖を感じていた。漁夫の利を狙うと言えば聞こえはいいが、俺はその両組織に狙われている。この作戦は両刃もろはの剣なのだから。


 「そうですね。まあこれが良くも悪くも、最終決戦でしょう。これで誰が生き残るかがはっきりします。まあ役者が二人いませんけどね」


 理事長と相良十次の事か。まああいつ等は松林グループに協定を結ぶとは考えにくいが、今回の件にはノータッチであろうな。理事長は学校を統率する者としての責任がある、本来のバトルパートに参加する人じゃない。相良だって只の平和主義者だ。こんなどんなタイミングで死人が出来てもおかしくない戦場に、駆り出される義務だのないのだ。奴の脱出技術は羨ましいのだが。


 ただ、理事長はそれでいいのだろうか。奥さんを戦場に送り込んで自分は知らん顔なんて。仲が良くない家族なのは見ていて分かった。リーダーは理事長の事を嫌っていたし、別居していて会話も碌にしていないらしい。娘である音無晴菜はリーダーが引き取っているみたいだが。家族崩壊を抱えたまま最終決戦に挑むなよ。


 「私はあんな町には行きたくないよ。私はあの町の皆さんを皆殺しにしそうになったんですよ。罪悪感が否めない……」


 「おぉ、苦しめ、苦しめ」


 俺だって行きたくないよ。俺は機関を裏切った身だ、町を崩壊させた奴と一緒に仕事をしている。それどころか、俺は悪霊になったらしい。俺の顔を見る瞬間に襲い掛かってきてもおかしくないからな。特に日野内飛鳥に合わせる顔がない。

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