悪魔
そこしかないって……、笠松の陰陽師機関が俺達を匿ってくれる理由なんかないだろう。俺は機関を追い出された身だ、そして俺達は全国の陰陽師を襲う悪名高いインチキ集団扱いされている。そんな淘汰すべき悪党を奴らが匿う訳がない。
俺は知っている、あの連中の人間的な醜さを。奴らはある意味で正義の化身だ、それは俺にとってだけの話であるか。奴等は当時小学生になった俺を尋常じゃなく苛めた。弱い物が地に伏せると喜んで踏み潰す連中だ、人間という生き物は本来、厳格な態度を自分より弱い立場の人間にしか与えられないから。
「無理ですよ、あんな連中をどうしてアテにしているんですか。そもそも鶴見との交戦の一件で完全に敵対関係でしょう、奴等と俺達は。逆に捉えられて殺されますよ。もっと有益な場所を……」
「大丈夫、その辺はきっちりどうにかするから。理由は……説明すると行弓君が殴り掛かってきそうな理由だから、言いたくないんだけど……聞きたい?」
殴り掛かってきそう……俺の仲間を犠牲にするつもりか。笠松は妖怪の住む町としてはかなり神聖地されている場所だ。そいつらを逃走用の壁にするとか……リーダーが考えそうな事じゃない。確かにこれが理由だったら、俺はリーダーに殴り掛かるけどさ。
じゃあ日野内飛鳥を利用……俺はともかく残りの連中は絶対に助けないな。いや、あの人は俺に対して厳しいから、泣きついたところで助けてくれないな。いくらあいつが天才でも、あいつだけで対処できる話のスケールではないだろう。
「俺達を誰が助けてくれるっていうんですか!!」
「…………柵野栄助」
は? 敵じゃん。思いっきり敵じゃん。俺達が今から倒そうとしている奴だよね、その女は。……確かに奴は烏天狗のいた山に潜伏している、だから奴らと鉢合わせるだろう。だからこそ、あんな一番危ない場所には向かわない方が良いと思う。つーか、思いつかなかった……、笠松町には行かない方が良い理由……。柵野栄助もいるんじゃん……もっと危険地帯じゃん。
待てよ、あえてそこへ向かうって事は……。
「柵野栄助と松林力也との共倒れとか狙ってますか、リーダー」
「そうそう、だって柵野栄助は行弓君の命を何よりも優先して守りたいと思っている。松林が行弓君を殺そうとするならば、奴が黙って指を銜えているとは考えにくい。お互いが疲弊しきった所を一気に叩く。これで万事解決するって寸法さ。名付けて『漁夫の利で全て解決してしまおう作戦』だ。因みにダモンは全て分かった上で、ワザと御門城に留まらせてスパイとして送り込んだ。僕が誘導しやすいように奴の仲間のフリをさせた」
この人……悪魔だ。そういえば忘れていた設定だが、この人も悪霊だったんだよね。確か緑画高校の理事長も悪霊だったんだよな。発想が人間らしくないというか、人情が無い。漫画なら『賢い』で済んだ話かもしれないが、俺には心が……荒んでいるように見える。