事後
鶴見を最後に見たのは、綾文功刀の配下となっていた馬頭鬼と牛頭鬼の二体を、格納庫の周辺から逃がすため出て行く直前だった。作戦後にスグに落ち合う予定だったのに、結局はこんなに日数が経てしまった。
「おい、鶴見。昔のお前みたいな破目になったぞ」
「…………ぷっ、っくっく……。もしかして行弓君? 本当にそんな姿になっちゃったの? 可哀想に、私は同じ痛みを知っているから笑ったりしな……っく、っゴホン!!」
思いっきり笑っているじゃねーか、それを咳で誤魔化しているじゃないか。まあ確かに男装の刑に処された奴を俺は散々に笑ったが、まさかこうも露骨に仕返しされるとは、思っていなかったぞ。俺が女装なんてありえないと思っていたから。まあこの姿は、正確には女装なんて生温い物じゃないんだが。必死に誤魔化したのは、後ろで五百機さんが睨んでいるからだろうか。
「着物、似合ってますよ」
「追継、お前いつの間に!!」
鶴見の次に二代目振払追継まで姿を現した、奴は思ったより俺の姿を見て、リアクションが大きくない。俺が柵野栄助と肉体が入れ替わった事を知っているのだろう。俺は奴に聞かなきゃいけない事がある、百鬼夜行のリーダーである音無晴香の娘なのかどうか。奴の本名が音無晴菜なのかどうか。
「……お兄さん、お勤めご苦労様です。先ほどに擦れ違った母から聞きました。久留間点滅も撃退したらしいじゃないですか。しかもお兄さんが。正直、お兄さんがここまで素晴らしい人材だと思っていませんでした。あの日、あなたを連れて来た私の判断は正しかったみたいですね」
……もう自分がリーダーの娘であるという事を隠すつもりはないようだな。他のメンバーもいるのに、口にしているという事はもう残りの連中も周知の事実だと言う事は。
「お前って、緑画高校の理事長と百鬼夜行のリーダーとの間の娘だったんだな。何で言ってくれなかったんだよ。これじゃあお前は、俺達にとってお姫様みたいなもんじゃねーか」
「まあそういう扱いを受けないために、今まで隠していたんですけどね。隠していた事は悪いと思ってます、謝りませんけど。それが不安要素の一つになっていたて、行弓君の行動を鈍らせていたのなら、我々の失態ですね。臭い物に蓋をしてしまっていても仕方ありませんか」
もうそれは解決した、だが不安要素なんて俺の中に数え切れないほどある。いや、その殆どが『事後』なのだが。烏天狗は帰ってこない、死んだ命なんて今の陰陽師の技術を使っても絶対に帰ってこない、悪霊化なんて寧ろ絶望だ。変わり果てた姿だったとしても、俺は奴を倒す事なんか出来やしない。例え仲間が戦っていたとしても、全力で邪魔するかもしれない。
そして俺の体だ、柵野栄助を倒せば変換されるなんて保証が無い、俺は一生女として生きていくのか、それだけは絶対に嫌だ。それ以前に、柵野栄助を倒す為の手段が全くない。
そして俺の一番の不安要素は……俺の命が大勢から狙われている事だ。