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呼吸

自分の能力には弱点が無い、奴はそう言った。それは一見には慢心に感じるが、それ以上に子供っぽい理由がある。奴が弱点は無いと言ったのは、寧ろ『虚勢を張っている』だけ。本当は自分の体が弱点だらけだから、それを悟られないようにしているだけだ。


 「リーダー、お願いがあります。恐らくこいつはそんなに動作無く倒せますよ」


 「おいおい、止めてくれないか。僕のどこに弱点があると言うんだ。お前達は結局は僕に不意打ちでも使わなきゃ攻撃を当てる事すら出来ないんだよ」



 「そうだな、でも俺達はお前に攻撃を当てる必要すらないんだよ」


 ……深海魚の表情なんか分からないが、奴の動きが明らかにオカシイのは分かる。それは何か異質なアクションをするから変なのではない。何も行動を起こさないからオカシイのだ。


 「…………やっぱりな。お前みたいなお子様っぽい奴が、どうしてリーダーを攻撃しないのか。そうでなくても、俺を回収しようとしないのか。違和感はリーダーが現れた時だ、お前にとっては最もレッドゾーンな危険要素であるリーダーが、この場に現れたというのに、お前は俺をさっさと俺を連れ去る努力をしない。倒せる自信があったのだとしても、挑発しても攻撃をしてこない。答えは簡単だ、お前は俺達が見えてないんだ」


 深海は日光の届かない暗黒の世界である。光が届かないという事は深海魚は目が進化の過程で発達していない、それどころか退化している。だからこそ、深海魚は少ない太陽光で敵を捉える為に、グロテスクな程に目が巨大化している。人々が深海魚に対し『気持ち悪い』という感想を抱くのは、生きている環境が全く違うからだ。彼らは見た目が気持ち悪いのは、その場に適応するための新化だったのだから。


 「お前は口もさることながら、目も大きいよな。でもそれは良く見えるんじゃない。見えないから、せめて大きくして範囲を稼いでいるだけだ。辛うじて一回目の爆発前に五百機さんの位置だけは見えていたから、一回だけは攻撃が与えられたが。リーダーが現れて二回目の修復をした時に、お前は俺を『見失った』んだよ。リーダーと俺がどこにいるのか分からなくなったんだ」


 ここまで挑発してやって、ようやく久留間点滅は行動を起こした。奴が目が見えない事は俺達にとって勝ち筋になる訳ではない。ただ奴が俺を特定できないだけだ。だが深海に一千年近く封印されていた事へのデメリットは、目の退化だけではない。


 久留間点滅は吸い込むモーションと共に、俺を吸いつけた。


 「へっへっへ。ばぁ~か。何をカッコつけているんだか。確かにこのモードの僕は視力が壊滅的に悪いが、だからって君を捉える事ができないんじゃない。忘れたかい? 僕は吸い込む時に、対象の題名を設定するだけでいいんだ。お望み通り、吸い込んでやるよ…………っへ?」


 「おい、よく見ろ、馬鹿。お前が吸い込んだのは俺だけじゃないぞ。って見えないのか」


 そう、奴は俺を殺さないように、吸い込む直前で寸止めする。だが、奴の目線の先にいたのは、俺だけではなく……音無晴香も一緒だった。奴は確かに俺だけを対象にして吸い込んだつもりだったのだろうが、俺に捕まっていれば、自動的にリーダーも奴に攻撃を与えるベストポジションに辿り着ける。だから俺はリーダーに『俺の傍にいる』ように頼んだのだ。


 「しまっ……」


 「なるほど、そういう事か。ようやく僕にも意図が分かったよ。行弓君」


 リーダーの両手に持つ双剣『下切雀』が奴を一閃し貫いた。しかし、それは奴を切り刻むための攻撃ではない。そうではなく、奴の重なっている口を『閉ざす』ためにやったのだ。二本の剣が奴の頭に突き刺さり、そのまま地面へと落ちる。そして二つの剣が奴の口の動きを止め、ストッパーの役割になる。


 「むぐっ、むぐ、うぐううう」


 これでお前の負けだ、久留間点滅。お前の最大の弱点は『深海と地上の圧力の差』なんだ。漁師が船で深海魚を捉えた時に、奴らの口から内臓が飛び出してくる。その理由は、地上の何倍も地球に核に近い深海は水圧が地上の何倍もあるからだ。人間が登山をすると息が苦しくなるように、奴等の高水圧に耐えうるように進化した体のつくりは逆効果だ。呼吸なんかできないのである。


 こいつはそれを『吸い込む能力と吐き出す能力』で上手くコントロールし、体を上手くこの地上に適応させていた。生態系での弱点を能力でカバーしていたのである。つまり奴は能力が発動しなくなれば、生きる事すらできないというわけだ。


 奴の体が膨張を開始した、さっきまでうなぎのような姿をしていた奴の姿が風船のように膨らんでいく。これでは『はりせんぼん』みたいだ。奴もそうとう苦しんでいるように感じる。尾をバタつかせ、もがき苦しんでいるようだ。これも柵野栄助のせいだろう。奴が深海からこいつを目覚めさせなければ、馬鹿な餓鬼のまま深海でゆっくりと寝ていられただろうに。


 そう奴の最後を憐れんだ瞬間に、遂に奴の体は破裂した。これで奴が復活する事は二度とない。能力が発動できなかった以上は周囲から妖力を掻き集める事すらできなかったのだから。奴も命令された身だ、殺す事はなかったんじゃないか、そう殺した後に思った。

第十九話、完!!

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