考案
リーダーが五百機さんの声に反応して、後方の魚の死体の方へ振り返った。
「復活か、体内の妖力を大幅に削らなくて無理だから、そんなに何回もは出来ないはずだ」
音無晴香がここで初めて声を発した。確かに綾文功刀も一度は復活はしたが、致命傷を回復できたのは一回だけだった。だがこいつは、…………また復活してやがる。切られた表面が元のパーツごとに接着していき、数秒で元の深海魚の姿に戻った。
「あれまぁ、不意打ちかよ。小せぇ野郎だな、でも昨今の中高生は不意打ちとか大好きって聞いたからなぁ。『戦闘において勝利を優先する為に、卑怯な手を使う俺、カッコいい』って奴だよ。本当に教育に悪いと思う」
レベル3の悪霊の中でも一番精神が発達していない子供っぽい奴である、久留間点滅に言われたくないと思った。『防御特化』というのは、あの驚異的な回復能力も含めてなら、奴が『殺されない』事に特化しているという謳い文句も納得がいく。こうも厄介な敵だとは思っていなかった。
「君達、奴の能力は分かるかい?」
どうやら五百機さんのピンチヒッターとして、リーダーが戦うつもりらしい。だが、果たして音無晴香が久留間点滅を圧倒できる何かを持っているのか。
「そんな事は仲間に聞かずとも僕が教えてあげるよ。僕の能力は『吸い込んで、吐き出す』能力だ。引力が如く僕が欲しい物だけを掻き集め、いらない物を徹底的に吹き飛ばす。これが圧倒的な防御力を誇る僕の力なのだぁ!!」
ちょっと待て、改めて奴の能力をお浚いして考えてみると、はっきりした事がある。奴の妖力の供給源だ。奴は元々はレベル1であって、そこから覚醒した事が原因で他の悪霊よりも妖力の絶対値が大きいのだと思っていた。しかし、それは思い過ごしだったかもしれない。
「久留間点滅!! お前はまさか妖力も吸収する事ができるのか!!」
吸い込むものの設定は題名だけでいい、奴はそう言った。検索ワードさえあれば正体を突き止められるインターネットのように、奴は題名だけでそれだけを吸収できる。『妖力』と設定してあとは吸い込む動作をすれば勝手に腹が満たされるという構造か。奴は妖力を溜められる貯蔵器が大きかっただけだったのか。
「ピンポンピンポン~、大当たり~。これが最強の殺されない悪霊たる僕の最後の切り札だよ~。『無限復活』ってねぇ。始めに言ったよねぇ、僕のこの能力はどんな能力よりも『理に叶っている』ってね。君達では僕の絶対防御を攻略できはしない」
ここまで自分の能力をべらべらと喋ってくれるこいつは、やっぱり馬鹿だと思うのだが。だが、これは本当に自慢できる程に凄い能力かもしれない。だがようやくこれで、奴の攻略方法が頭に浮かんだ。これでこの姿でも奴を倒せるかもしれない。
「おい、久留間点滅。この瞬間にお前の敗北は決定した。死にたくなかったら、ここで謝っておけ。俺が考案したこの作戦はお前を楽には殺せないぞ」
……今まで壁に打ち付けられても平常心を保っていた五百機さんと、今まで冷静な顔をしていたリーダーの顔色がゴロっと変わった。まあ気持は分かる、今の俺に何ができるか分からないのだろう。式神も無い、妖力も無い、身体能力も無い。こんな変わり果てた俺に何ができるのかと。
「行弓君。何を言っているんだ!! 君の使命は全力でこの場から逃げる事だろう。どうして我々が体を張って奴を抑えていると思っている!!」
五百機さんの声に俺が叫び返した。
「どこに逃げたって一緒でしょう。どうせこいつからは逃げられはしないんだ。戦って殺すしか安全を確保できないんです。それにこいつは俺に任せて下さい。こいつの能力の攻略法は分かりましたから」