金属
圧倒している……、レベル3の悪霊相手に動きを完全に封じた。こんな真似が出来るなんて、流石あの音無晴香のお墨付きを貰っただけの事はある。捕獲不能の妖怪を式神にしているだけの理由がこの人の強さではないはずだ。なんというかこの人、総合的に強いな…。
「行弓君、離れていろ。リーダーが到着するのを待つ必要も無い。ここで奴を爆散させる」
リーダーが到着するまでの時間稼ぎとして、拘束しただけでも充分であり、殺せる一歩手前まで追い込んだ時点で完璧だと思うのだが。ここからまだ追撃を加えようとするのか。拘束ではなく破壊を狙うならば、五百機さんの霧の攻撃でどんな威力のある技がだせるのだろうか。
「私に最上級攻撃を見せてやろう」
大蛤がさらに動きを開始した。久留間点滅を閉じ込めた氷の球体が宙へ浮く。始めは念動力で浮きあげたのかと思ったが、良く確認してみると違う。目に見えない氷の幕で空間を作り、そこに大蛤が吐き出す水で浸しているのだ。水が氷の球体を持ち上げているのか。今度は何を始めようというのだ。式神が巨大なだけに、結構派手なパフォーマンスだよな。
「さて、仕上げだ」
五百機さんが懐から取り出したのは、鉄球?
「私の陰陽師としての属性は『水』と『火』だ。式神が完全に水属性特化だから気付かれにくいのだが、私の体の中に流れている妖力の半分は、火炎の力が流れている」
鉄球に妖力を込めている……あの鉄球はもしや鉛か。鉛は人類の文明とともに広く使われてきた代表的な重金属である。低沸点で柔らかく、製錬が容易な特徴があり蓄電池やはんだで利用させるのが特徴だ。
で、なんで俺がこんな推理に達したかと言うと、何となく今から五百機さんが何をしようとしているのか分かったからだ。まさか、実験室でもないこんなコンビニの駐車場であれをする気か。
「安心しろ、幻覚でガードは張っている。衝撃はこっちにはこないし、周辺のも被害はでない。ただ……中にいる奴は知らん」
衝撃……やっぱりだ。五百機さんは……水蒸気爆発をする気だ。火山での爆発の理由でもあり、密閉空間内の水が熱により急激に気化・膨張することにより、大量の水蒸気が急激に発生する現象の事である。
五百機さんが鉄球を水のベールに投げすてた。と、瞬間的に中で極めて激しい爆発が起こった。本当に衝撃派や爆音などは飛んでこないのだが、その激しさはよく見える。ここまで巨大な実験はここでしか見られないんじゃないか。いや、妖力で爆発を拡大させているだろうから、人間の英知を超えているか。ただの化学現象ではこの光景は語れない。
「死に晒せ、餓鬼臭い悪霊め」
そしてこの決め台詞である。爆発による被害はスグに引いた。ベールが崩れていき霧の状態に戻る。そこには氷の球体も無く、久留間点滅の姿などどこにもなかった。衝撃で肉体どころか全てが爆散したのか。あれだけの技を受けたのだから、……無事ではないと思っていたが、原型も残さない程まで威力が出るとは……。命令で動いていただけの久留間点滅にちょっと同情する。
待て、また悪い癖が出た。楽観視するな、物事を悲観的に考えろ。こんなにあっさり最大防御力を持つ相手を倒せるのか? 本当に戦いは終わったのか? 本当に勝負はついたのか? 久留間点滅は……本当にこれで死んだのか?