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細氷

 俺には五百機さんに有効な反撃の手段があるようには思えないのだが。何か無茶な作戦をするつもりだろうか。

 

 「霧の応用は幻覚だけじゃない、視界を遮る事だけが能じゃないんだ」


 はったりだ、と仲間である俺が思った。雲が地上に落下してきただけの水滴の集まりでは、奴の問答無用なガードを突破できない。五百機さんが弱いだの、力が無いだのそういう事が言いたいんじゃない。『無から有』を作り出すその能力は相手によっては圧倒的な効果だっただろう。しかし、今回は奴の言う通り分が悪い。久留間点滅の攻略に要求されるのは、純粋に空圧に耐えうるパワーだ、技術ではないのである。


 「五百機さん……」


 遂に久留間点滅が痺れを切らした。膠着状態を打開するために攻撃を開始したのである。先ほどと同じく、離れた場所にいる五百機さんを狙った空気砲だ。向かい合って権勢していたので反応が早かったからか、今回は右方向に避けられた。追尾弾も華麗に躱していく。空気砲にはスピードはかなり早いが、どうしても久留間の口がに吐き出すモーションが入るので、攻撃が飛んでくるタイミングを先読みしやすい。


 だが、一撃でも攻撃を浴びるとまずいぞ。威力はかなりあるように思える。地面のコンクリートが抉られているのだ。人間の皮膚が耐えうるはずがない。久留間の目的は五百機さんを精神的に追い詰める事だ。俺を殺そうとさせて、俺に絶望を植え付けるために。だからこそ、あの的のデカい大蛤の方を攻撃しないのだ。俺を傷つくのを避けているのかもしれないが。


 「あれあれ? お姉さんったらまだ何かするつもりなのかな? 無駄だって、どんな攻撃も跳ね返せるって言ってるのがわから…………あれ?」


 戦争において銃よりも遥かに効果があるのが、毒ガスである。集団で何人もの人間を殺せる上に、楯だの壁だので防ぎようがない。だが久留間点滅は空気を吐き出す事ができるために、毒ガスでは奴を殺せないだろう。つまり空気の圧力で跳ね返す事が出来ないような攻撃を放てばいい。


 「凍っている……、どうしてっ? 体が凍っていく?」


 奴の全身が徐々に氷漬けにされていく。まるで吹雪に晒されていくように、体を拘束されていく。みるみる久留間の顔から笑顔が消えていった。


 「細氷ダイヤモンドダスト。水蒸気を水滴化して凍らした物だよ。今回に貴様に周辺一帯に展開した霧は細な氷粒で構成される霧である『氷霧』だ。これは大気中に舞っている状態に事を言って、地上に付着した上体が『細氷』となる」


 遂に氷の浸食は深海魚のような第二の口にも浸食し、奴の動きを防いでしまった。吸引がなくなったので、俺も空中での浮遊に解放される。地面に叩き付けらたが、あまり高さが無かったので怪我は無いのだが。瞬間に大蛤が霧となって消えた。と、同時に巨大な存在感のある二枚貝が姿を現す。これが本当の大妖怪『蜃』の姿なのだろう。俺の右足を抑えていた奴も所詮は分身した姿に過ぎなかったのだろう。


 下手なビルより大きいんじゃないか、全体が霧の姿をしているがために俺も五百機さんも久留間点滅も埋もれてしまっている。だが、薄い色が茶色が霧として見えるために、そこに存在する事が分かる。


 「なんだと……」


 「初めからお前も私も行弓君も私の妖怪の中だ。幻覚の中に包み込んでいたんだよ、そこに独自の霧で埋め尽くすのは至難の技じゃない。霧使いの私にとっては、例え本来はマイナス三十度でしか発生しない霧を展開するのも造作も無いんだよ」


 全身が動かなくなった、顔が埋まった事でもう一方の口も塞がり、全身が氷漬けになった。その顔は心底信じられないという顔をしている。


 「これで貴様の自慢の吸引も吐出もできなくなった、チェックメイトだ」

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