収拾
久留間点滅について俺は何も知らない、防御特化の悪霊で……って事くらいしか。奴の性格は子供っぽくて、『構ってちゃん』みたいな動きをして。なんか五月蠅い奴っていうイメージがあった。
だが戦闘的な事を知っているわけではない、どういう風に防御能力が発揮されるとか、奴の能力がどういった具合に発動するのかとか、さっきの自動車事故だけじゃ推測できないな。って、五百機さん一人で奴をレベル3の悪霊を完封できるだろうか。
「……五百機さん……」
「奴が来るぞ!! 私の傍から離れないで!! 蜃よ、霧を展開してくれ。今すぐにこの場から脱出する!! このままだと…」
このままだと……少し考えてすぐに分かった。陰陽師の大前提として一般人を巻き込むのはご法度というルールがある。例え自動車が脱線して来ようものなら、本来なら体を張ってでも建物を傷つけてはいけないのだ。今は時間が無く鬼神スキルで誤魔化す暇すらない。というか、この状況こそが久留間点滅の罠なのだから。
悲鳴が聞こえる、慌てて店員と客が店から出来きた。酷い爆発音だった、まだ炎上して煙を焚いている。店内に怪我人がいるかもしれない。ぶつかったのは雑誌コーナーあたりだから、本を立ち読みしていた客がいる可能性は充分にある。さっきトイレに入った時にその道を通ったのだが……どうだったか……。
「中に怪我人がいるかも……、見てきます」
「駄目だ、リーダーに任せるんだ!! 君は回復手段も事態を収拾する手段も無いだろう。君の今にすべき事はこの危険地帯から少しでも多く逃げる事だ。それが今の君が一番にすべき使命だ」
でも……もし被害者がいたならば……俺のせいだ、俺が原因で関係ない人が傷ついたんだ。だって久留間点滅は俺とリーダーを分断させる事が目的で攻撃を放ったのだから。俺が途中下車さえしなければ、真っ直ぐにアジトに帰っていれば、もっとマシな対処ができたはずなんだ。
「幻覚を張り巡らせる、霧を利用して辺りを……」
いつの間にか五百機さんは自分の式神を利用し、俺の視界を霧で埋め尽くしていた。彼女は『幻覚』のスペシャリストである。あの陰陽師界最高権力者だった安部清隆を容易く騙せるほどに。
どうやら久留間と交戦するのではなく、この場から逃げるらしい。まあ足手纏いを片手に真面に戦える相手じゃないのは分かるが。霧は随時、俺と五百機さんの姿になり四方八方に拡散していく。分断戦術か、幻覚使いならではの技巧だ。
だが……。
「知っている? 霧って所詮は水蒸気っていうか、水の塊なんだよね。雨粒と何も変わらないの。だから雨粒を天へと打ち返せる『自由自在の引力使い』たる僕にはそれは通用しない」
この声は……間違いない。あの時に烏天狗の山で見た奴の声だ。本当に奴が俺の追手だったのか。霧が何事も無かったかのように消えていく。まるで水蒸気が晴れるように。いや……まさか霧の展開している空間が並行移動しているだと!!
「迎えに来たよ? もう一人の柵野栄助様しゃま~」
「くっ、久留間点滅!!」