五行
「じゃあ早速だが。式神を呼び出すのは後でいい、まずはお前と式神の相性を測る」
式神側に妖力があるように、陰陽師にも妖力が存在する。契約する場合に重要となってくるのは、この二つの妖力の相性だ。
妖力には五行と呼ばれる、属性分けがある。火、水、木、金、土。この五つだ。勿論、完全一致が一番宜しいのだが、なかなかそう上手にいかない。式神側の妖力は大抵が一つしかない。例外で複数の霊力を持っている奴もいるが、そんなのは基本的に強くない。自分の属性を極める方が断然強くなれる、これが基本原則だ。
しかし陰陽師の妖力の形態は少々異なる。ほぼ全ての陰陽師が二つ以上の属性を持っている。一種のみの陰陽師など俺は出会ったことがない。つまり、陰陽師側が一種の属性でない為に完全一致は実現しにくいのだ。
この属性分けだが、それこそ一族的な問題に関わってくる。同じ家の人間は大抵が同じ属性を所有する、だがら陰陽師は安心して後世に自分の式神を預けられるのだ。一族という概念があるほど属性が固まりやすく、専門分野を極められるようになっている。例えば、よつばや、御上は火と金の二種しか持っていない。だからこの二種だけを極めればよい。これがお家の違いで発生する力の差だ。
では俺の属性は何なのか……。
全部、つまり俺は全ての属性の妖力がある。一見強靭そうに感じるかもしれないが、はっきり言おう。最弱だ。だって一つあたり極められる限度は20%。誰にも勝てる訳がないだろう。
「うわー、全種類か。式神を選ぶ手間とかいらないな。つーか、これは最早笑える」
「悪かったな、仕方ないだろ。こればっかりは」
「いや、全種類の式神と契約すれば……、駄目だな。行弓自身の容量が足りない。つーか、今までの契約してきた式神の属性は?」
「始めが風で、今は火です」
「じゃあ今は火のみを極めるか。でもなぁ、火を極めたからって得られる結果は五分の一だからなあ。ある程度、三種類くらいに増やすか」
「また新しい式神と契約するのか?」
「あぁ、だが技の一撃ずつの威力は低いままだろう。だからせめて多種類の属性を同時に操れるようになって、技術でパワーを上回る作戦でいく。陰陽師の中にはそうやって生計を立てている奴も少なくない。ただこれは覚えておけ、結局はパワーは変わらない。だから正面から相手と戦ったってお前は勝てない」
……、そんな戦い方を全く知らない訳じゃない。俺だって強くなろうとした時期があったのだ。今の先生の言ったことは最もだと思うが、元々バトルセンスすら欠けている俺が、パワーが圧倒的に勝っている相手に、そんな応急処置みたいな力のつけ方で適うだろうか。
「あの……一つだけ提案がある」
先生は許可するというように、頷いた。
「百鬼夜行と同じことを俺もしてみようと思うんだ。火以外の属性の式神なんだが……普通の陰陽師が捕獲出来ないような大妖怪と契約してみる」