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愚痴

 結果的な事から言う。俺は殺されなんかしなかった、それどころか理事長よりも先にリーダーは駆けつけてくれ、百鬼夜行へ保護されるという形でアジトへ帰れる事になった。迎えにきてくれたのは、リーダーと五百機いおはたさん。二人ともまるで不祥事を起こしたアイドルに、フードを被せるマネージャーみたいな表情だった。


 もっと悲惨だったのは理事長だった。畳の監獄から出た時に場所は緑画高校だったのが理由だからだろうか、畳の呪縛から出てきた俺を理事長が待っていた。理事長は会話の一つもしなかったが、俺の姿を恐ろしく恐怖した目で見ていた。俺に何を考えているのだろうか? 想像してもどうしようもない。


 リーダーと五百機さんは俺を橇引行弓と認識している事は俺も嬉しいのだが、瞬殺されなかったというだけで、帰ってきっちり殺されるかもしれないのだが。リーダーが悪霊だったという、俺にとっての裏切りがまだ心の中で解決していないからだ。どうしても疑心暗鬼が消えない、まだ俺の中に恐怖が渦巻いている。


 本当は相良から聞き出せなかった、御門城での闘いの結末や鶴見と追継はどうなったのか、どうして俺を橇引行弓だと確信するような態度の理由とか。本当はタクシーでアジトへ帰る無駄に長い時間に色々聞きたかった。時に柵野栄助に体を乗っ取られ全く身動きが取れず、肉体が入れ替わってようやく動けると思った矢先に長時間の放置である。俺だってお喋りしたいわ!! 愚痴聞いて欲しいし、誰かにこの悲しみを使えたい。本当はもっと散々に泣き叫びたかったのだ。


 鶴見は男装した時に平気で泣き叫んだり絶叫したりしていたが、心の底から羨ましい。俺はそれすらできない、奴はまだ自分の体でメイクと衣装を取れば直るあたり、俺より絶望感がないはずなのに。俺はもう一生このまま女の子として生きていく決心をしなきゃいけないかもしれないのに……。


 もっと言うなら俺は今、死と隣り合わせの状況だ、死への恐怖が襲う中で平常心なんか保てるはずがないだろう。あらゆる恐怖が俺を突き刺すように襲う。俺がラスボスと密接に関わってしまったせいで……。絶海の孤島に一人で取り残された気分だ。


 しかも何故か、二人とも俺に何も話し掛けてくれないのである。俺への失態に対する懲罰か、それとも大人の責任という奴か。俺が実は柵野栄助である事への疑念か。もう俺の疑心暗鬼は酷く荒んでいた。


 「………すいません、降ろして下さい。コンビニによってもらっていいですか。ちょっとトイレを借りたいんですけど……」


 具合が悪い、吐き気と眩暈が襲った、ストレスなどの精神的な物だろうか。それとも俺がこの肉体に馴染んでいないからだろうか。


 「どうした? 行弓……、トイレか……。えっと……その……」


 五百機さんがここで初めて口をきいてくれた、俺が喋るのを待っていたのだろうか。彼女なりに会話が出来なくて苦しんでいたのかもしれない。


 「すいません、そっちじゃないです。吐き気がするです。……って、そうか。この姿だから……。大丈夫ですよ、最近のコンビニは男女共通のもありますから……。この道は知ってします、そこを曲がって下さい。案内します……」

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