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風味

この部屋からの脱出方法が分からない以上は、反撃の使用がない。脱出していても戦う意味が無い、自ら脱出できる手段を捨てる事に等しい。だが、瞬殺されたら終わりだ。何とか会話に持ち込んで殺されないように、説得しなければならないが、理事長とリーダーが悪霊だったという裏切りを経験している、俺なんぞ相手にされない可能性も高い。


 それ以前に俺は百鬼夜行の構成員として、失態を犯した。本来は馬頭鬼と牛頭鬼を自害させた時点で俺の任務は終了だった。それをバトル漫画風味に気合いを張り、綾文功刀を倒そうと望み、失敗してはいないのだが、更なる脅威である柵野栄助を復活させてしまった。殺される理由としては充分である。その不始末を拭うという意味で、俺を殺し柵野栄助を殺す。わぁ、理に叶っているなぁ、悲しいくらいに。


 「駄目だ、処刑される前の罪人じゃねーか」


 かの有名なマリー・アントワネットは自分がギロチンで処刑される間に、殺される瞬間まで一回も取り乱さずに死を迎えたらしい。高貴なる人間の意識は違う。だが、俺にそんな真似はできないだろう。俺の迎える死は『名誉の戦死』ではなく、相手の能力に染色された裏切り者なのだから。


 「ぅ、ぅ、ぅ……」


 気が付いたら涙が溢れていた。自分の人生を思い出してしまったから、振り返ってしまったから。小学生の頃からそんなに幸せな人間じゃなかった、醜い大人に八つ当たりされ、狭い部屋の中に閉じ込められて仕事をさせられた。戦場に向かう向上心が途絶えた俺が悪いのだが。その後は切り捨てられるように、何の見返りもなく機関から捨てられた。青春を捨て、尽くした結果がこれだ。


 それでも新たな機関で自分の使命を持って新たな未来へ羽ばたけると思った。なのに親友を失い、肉体を失い、人間を失なって、こんな惨めな殺風景の密室の中で殺されるのだ。神様なんて者を信じた事などないが、これは流石に神を恨んだ。人生の理不尽さと不合理さと、あまりの肥大差別に。


 「……ぅぅぅ、死にたくない………」


 声を押し殺して泣いた、俺にはそんな事をするくらいしか出来なかったから。神を恨んでも救いの手は舞い降りてこないから。

 

「行弓君。辛い思いをさせてしまったね」


 声がかかった。その声を発した人を思い出す前に肩に手を置かれていた。誰だろうか、この段階になって俺に対しねぎらいの言葉をかけてくれる人などいはしないと思っていたのだが。


 顔を拝むために振り返ろうとしたら、全身を抱かれた。少し痛いくらいに。まるで俺の悲しみを分かち合おうとするように。同情なんてされるのは、何年ぶりだろうか。こんな意味の分からない状況で俺は混乱しつつも、涙があふれ出ていた。


 「助けにきたよ、行弓君」


 そのにいたのは、女性だった。いつぞやの理事長室で見た写真の女性にぴったりである。それは昔に出会った数少ない俺の理解者だった。俺の雑用を少しだけ手伝ってくれた人物。だが、俺はスグにその人が誰なのか分かった。


 「リーダー……」


 そこにいたのは紛れも無い、百鬼夜行のリーダーである、それの男装していない方の姿だった。その人は『空白の振払追継』という。本名を……音無晴香。

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