冥途
俺は長い間、何も知らないまま拘束されていた。と言っても50時間くらいだと思うのだが。その間に俺が知らない終戦があったはずだ。格納庫へ向かったメンバーの囮として、御門城に向かった奴等だ。
百鬼夜行からは四人、緑画高校からは理事長を除く全員がそちらへ出撃していたはずだ、ここにいる相良十次もそこへ向かっていたらしい。それだけの戦力を送り込んだ理由は、陰陽師本部の連中は強い、しかも操作能力者であった綾文功刀からの洗脳を受けて強化された、最強の軍隊だったのだから。
戦況としての分岐点は、綾文功刀が御門城での戦闘を諦めてパワーアップを図った事である。奴は御門城での駒を全て捨てて、妖力を回収した。それによりある程度の疲労も回復し、鶴見と理事長のタッグを撃退に成功したのだった。
だから対照的に御門城での戦闘は終戦を迎えて楽になったはずだ。だが戦争というものはどこまでも想定外の事態が発生する代物だ。詳しい結末を知っておく必要がある。特にリーダーの居場所とか。悪霊の体を乗っ取って復活した俺を、奴はどう思うのか。最悪の場合は……一瞬で首を刎ねられかれない。
「あぁ、何で俺がお前にそんな機密事項を話してやらなきゃならない。大人しくそこで処刑の時間まで寝ていろ」
こいつぅ、どこまで無能なんだよ。いい加減に俺だって気が付けよ、別に時間は無限にあるわけじゃないんだ。
「いいから言えって。今はとにかく情報が欲しいんだ。こんな何も出来ない場所で、寝ている暇なんかないんだよ」
あの闘いによってどうなったのか、これはとても重要な事だ。百鬼夜行の半分のメンバーの所在が分かるかもしれない、怪我をした奴とかが分かっって、単独で会話に臨めるなら、思いの外助かるので。
「駄目だって、お前が本物の橇引行弓かどうか分かるまでは絶対に駄目だ」
…………頭の固い奴め、もういい。後から理事長に報告して貰ってから、聞き出すとしよう。それから聞きたい事はもう一つあったのだ。
「よし、じゃあもう一つだ。どうして理事長や百鬼夜行のリーダーは、柵野栄助をスグに殺そうとしなかったんだ。奴はレベル3の悪霊の中でも最凶だったのだろう。一旦は捕獲するくらいなら疑問はないけど、この空間から逃げ出す可能性を残していながら、何で安全策を計らなかったんだよ。俺が柵野栄助だとしても、答えてもいい質問だろう」
「ちぃ、また答えにくい質問だな」
俺が奴等の立場なら、きっと柵野栄助を即刻に殺している。でもそうしなかったのには、絶対に確証のある理由があったのだろう。これにより柵野栄助の弱点が分かるかもしれない。
「まあそっちはいいか、冥途の土産に持っていけ。物事には何にでも順序という物があるだろう。柵野栄助を倒したいのは山々なんだが、ちょっとそうは出来ないんだ」